閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

206 平成最後の甲州路 第6回‐11月23日

 起床午前5時15分、空模様は判らず。

 ラヂオを聴きつつ、珈琲2杯とメロンパン。

 同6時40分過ぎ、家を出る。東中野驛6時55分發千葉行きで新宿驛まで。窓外は晴れ。新宿驛には同7時着。

 煙草を1本吹かしてから、驛構内の[成城石井]でチーズ、[頂]で“金目鯛の西京焼き弁当”を買ふ。同7時半、頴娃君と合流。

 もう1本煙草を吹かし、乗車は特別急行列車のスーパーあずさ5號。座席にコンセントが用意されてゐて、早速充電をする。これでけふのバッテリは大丈夫だらうと思つてゐるうちに、列車は定刻通り恙無く發車。

 三鷹驛を通過するのを待つて…これは旅行といふ気分の為に大切なのである…、西京焼き弁当をつまみにアサヒ・スーパードライ。そこからヱビス。井筒ワインの信州桔梗ヶ原だより。

 酒精を撰ばない点でチーズが最強の肴説。

 甲府驛で手を振るお嬢ちやん。

 頴娃君、昨年は出羽櫻を3本もきこしめすが、今回は自重する。経験が活きてゐる、えらい。

 小淵沢驛で降り、慌ててサントリーの仕立てたバスに乗り込む。白州の見學は午前10時からで、担当の秋山さんは愛らしいお嬢さん。幸先がいいなあ。

 白州は“森の蒸溜所”と呼ばれるくらゐ、珍しい環境らしいが、訊いてみると、森を撰んだのではなく、いい水を求めた結果であつたさうな。

 ピート…泥炭は麦を燻すのに用ゐる。その燻し具合で、味はひが異なつてくる。

 醗酵の樽は米國の松で、寝かせる樽はオーク。

 樽は職人の手造り。釘や接着剤は使はず、かしめるとのこと。

 丁寧な説明に感心する。

 貯藏庫の香りを鼻孔に残しながら3種の試飲をば。白州の“構成原酒”と呼ばれるホワイトオーク樽とライトリー・ピーテッド。前者が基本で、後者を調整に用ゐるといふ。それから白州そのもの。その白州はストレートと作り方を教へてくれたハイボールで。ハイボールが實にうまかつた。

 賣店で限定白州を1,440円で入手。偶々同じ見學に参加してゐた小父さんに、ほらほらあるよと知らせてもらつた。すぐ後に棚からなくなつたから素早く購入したのは正解だつたのだらう。

 タキシを奢つて長坂の[くぼ田]まで。二八の蕎麦に白州ハイボール。頴娃君は七賢と十割蕎麦。鶏もつ煮と茄子の蕎麦味噌田樂を肴にする。もつ煮に振られた粉山椒は中々宜しく、蕎麦味噌がハイボールに適ふのは發見であつた。

 その足で午后2時から[山梨銘醸]の見學。番犬のセブン(コリー)が愛嬌よく迎へてくれる。

 酒藏にしては珍しい3階建て。監督署の無理で合理化を進めた結果、繁忙期でも週5日勤務になつたんです、といふ話。ほほうと感心する横で、さうかなあといふ顔つきの頴娃君。誇張した冗談は笑ふのが礼儀なんですよ。試飲は有料のみ。但し一部の銘柄を除けば最初は無料だし、有料といつても大した金額ではない。そこで[一番しぼり(生)]を仕入れる。

 小淵沢驛から中央線で甲府驛まで。ホテルにチェックインして、セリオで買ひ物。キリンの一番搾り、鶏の唐揚げにいなだのお刺身、各自のお弁当などを買ひ込む。一献を酌みかはしたのはひと風呂を浴びてから。多分いい話をした筈なのに、記憶にもメモにも残らなかつたのは、まつたく無念と云ふ外にない。