閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

314 娯樂といへども

空腹はきらひだけれど、何を食べるかを考へるのは好きである。矛盾してゐる。どこが矛盾かといふと、何を食べるか考へるのが樂しいのは、お腹が減つてゐるからで、満腹の時に考へるだつて詰らなくはないが、どことなく計劃的な気分になる。お財布にとつて、…

313 裏話

三百二回目から三百十二回目まで、主に食べものについて、短めの話を書いた。本棚に福武文庫版の内田百閒の随筆があるのを取り出して讀んでゐる内に影響されたらしく思はれる。百閒先生の随筆は割りと短くて、妙なところが緻密で、文章の基本と云はれる起承…

312 横濱ビイル

何年か前…その何年か前は中畑清が監督の頃だから、この十年以内のことである…横濱球場で麦酒を呑んだ。いや麦酒はつけたりで、野球見物が主だつたのだが、そつちの話は措く。 横濱球場は麦酒の持ち込みが出來ない。外の球場もさうなのだらうが、明治神宮野球…

311 散らし助六

いつ食べてもかまはないし、食べればうまいのに、食べたいとは思ひにくい双璧は散らし寿司と助六ではないかと思ふ。殆どのひとが、さうではないだらうか。統計を取つたわけではないから、殆どが正確なのかどうかは疑はしいけれど、何となくそんな気がする。…

310 特別急行の卓

年に何べんかは特別急行に乗る。中央線で新宿と甲府または小淵沢間のあずさ號。東海道新幹線で東京新大阪間のこだま號かのぞみ號。外の特別急行は乗らない。厭なのでなく切つ掛けが見つからないのが理由で、切つ掛けが見つかれば乗るのは勿論吝かではない。 …

309 鮭の塩焼き

平成元年の春、庖丁を初めて持つた。時期がはつきりしてゐるのは、千葉県の市川市で独り暮しを始めたからで、自炊をせざるを得なくなつた。何をどうすればいいのかさつぱり解らなくて、野菜炒め計り作つた記憶がある。 續いて魚を焼くことを覚えた。但し捌く…

308 スパゲッティ

考へてみたら長いことスパゲッティを食べてゐない。マカロニも食べてゐないと思つたが、こつちはマカロニ・サラドで食べてゐるから、縁遠いのはスパゲッティといふことになる。家で用意するのに苦心があるわけでない。大鍋にたつぷりの水と塩をひと掴み。こ…

307 カレーシチュー

小學校六年間の樂しみと云へば給食だつた。所謂ご飯給食は知らない。中學校に進學する年度になつて、試験的な導入があつたさうで、悔しかつたのを覚えてゐる。食べられなかつたからさう思ふので、實際に食べてゐたらちがふ感想を持つた可能性はあるが、食べ…

306 惣菜麺麭

惣菜麺麭を偶に食べる。ソーセイジやコロッケやミンチカツ、或はソース焼そば、ナポリタン・スパゲッティ(ジャムやチョコレイト、クリーム、餡の類は菓子麺麭だから別扱ひにしたい)を乗せ、または挟んだ麺麭。取り立てて旨いとも思はないが、何かの弾みで口…

305 素麺

一体この時期は食慾が落ちる。空腹を感じないのではなく、胃袋に収められる量がぐつと減る。同時に収めたくなる食べものの種類が絞られてもくる。ごつてりとした煮込みなんかは見るのも厭になる。匂ひに鼻を擽られると旨さうだなと思はなくもないが、目の前…

304 チキンカツ

チキンカツはあんまり見掛けない。マーケットの惣菜賣場に百九十八円(但し消費税は別)で並んでゐるのを見るのが精々で、もしかすると洋食屋だとか定食屋のメニュにもあるのだらうが、記憶に残つてゐなければ、見掛けないのと同じである。 正直なところ大して…

303 しやぶ餅

友人にKといふ男がゐて、食べものの好ききらひが烈しい。他人さまのことを煩く云へもしないのだが、Kは生魚全般が駄目と称してゐて、そのくせいつだつたか、鮪の油のところを旨さうに食べてゐたから 「話がちがふぢやあないか」 さう指摘したら 「かういふの…

302 カップ焼そば

初めて食べたカップ焼そばは多分日清のU.F.O.で暫く外に同じやうなのがあるのを知らなかつた。袋入りの即席焼そばはその前から知つてゐて、それも矢張り日清だつた。日清は大坂が拠点だか本社だかの筈だから母親が義理立てしてゐたのだらうか。併しそんなこ…

301 換骨奪胎

ほぼ毎日、スマートフォンのカメラ機能を使つてゐる。仕事の行き帰りに見掛けた季節の草花やちよつとしたスナップ…ではなく、何を食べ、或は飲んだかの記録が目的。大坂の古い友人に云はせると、忘れて仕舞ふのは、その程度なのだから 「わざわざ撮らンでも…

300 曖昧三百

“数の性質”は[数の帝国]といふサイトのコンテンツのひとつ。 https://ja.numberempire.com/300 そこを見ると、フィボナッチ数/ベル数/カタラン数/規則的数(ハミング数)/完全数/多角数なんて項目があつて、何の意味か、さつぱり判らない。数學的な素養がゼロ…

299 擬きだつて何だつて

冷や汁といふ食べものがある。日向國…今で云ふ宮崎県の料理。宮崎市観光協会のサイトによると http://www.miyazaki-city.tourism.or.jp/gourmet/01.html ◾️焼いたあじ、イワシなどの近海魚をほぐし、焼き味噌をのばした汁に、豆腐、きゅうり、青じそなどの薬…

298 記号になる

健康診断といふのを診けたのです。ええ、先日の話。身長体重腹囲視力聴力血圧の測定に採血心電図胸部X線採尿。一時間班くらゐ掛つた。目に入つた数字はざつと、(不養生な生活の割りに)正常と呼べる範囲でした。腹回りは些か増えてゐたけれど、まあその辺は咳…

297 はんぶん

昔々、ハーフサイズ・カメラといふのがありましてね。ライカ判のフヰルムを半分づつ使ふ、一種のコンパクト・カメラ。昭和四十年代の初頭、爆發的に流行して、直ぐに消えた。我が若い讀者諸嬢諸氏はご存知ないでせう、えへん。 その代表にオリンパスのペンを…

296 好もしい文字

この手帖では漢字を好んで用ゐる。 “そば”でなく“蕎麦”、“うどん”でなく“饂飩”、或は“ビール”を“麦酒”とするのが、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にもお馴染みか。序でにカタカナ表記も少ない(“トンカツ”ではなく“とんかつ”)とも思ふのだが、こちらは本筋から外れ…

295 カハ

徳川光圀といふひとはどうも好きになれない。儒學…朱子學の徒なのが大きな理由だと思ふ。前者は礼儀を口喧しく云ふ態度だし、後者は正邪に膠泥する態度だから、どちらも碌なものではない。何につけ(政治的な)イデオロギーが碌でもないのは世の常とは云へ、ど…

294 調理場からの忠告

気温を高く感じる時節になると豆腐を、食べる機会が増える。青葱、生姜、削り節、揚げ玉。ぽん酢か麺つゆか。まあ大体はそんな感じ。その辺のマーケットで賣られてゐるやつ(充填豆腐と呼ばれるらしい)だから、厳密には豆腐と云へるかどうか、些か怪しい。尤…

293 鬩ぎ合ふ

相も変らずパナソニックのGF1と同3を使つてゐる。カメラの話。GF3はほぼオリンパスのボディキャップ・レンズ(型番BCL-0980)の専用で、元々その積りの入手だつたから別に問題はない。序でに云ふとGF3には出來るだけお金を掛けないのを方針にしてゐる。ただ偶…

292 レバとニラ

『檀流クッキング』(檀一雄/中公文庫ビブリオ)の二十五ページに、かういふ一節がある。 豚のレバー二百グラムばかりを食べよい大きさにザクザク切って(中略)、中華鍋の中にラードを強く熱し(中略)、煙をあげる中華鍋の中に放り込む。レバーの表面が焼けて、…

291 葱を喰ふ

池波正太郎の“剣客商売”の冒頭、主役のひとりである秋山大治郎が、貧乏道場で賄ひの婆さんが用意した(だつたか知ら)、麦飯と根深汁だけの質素な食事を摂る場面がある。鼻をひくつかせながら食べる様が、如何にも健康な若ものの食事らしかつたのは忘れ難い。…

290 厚揚げマンマ・ミーヤ

画像は[285 ソノママ離レ]で使つたのを再利用してゐる。この手帖は所謂“寫眞ブログ”でないのは我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にご承知だらうから、苦情を云はれる心配は無いだらうけれども。 わざわざ画像を使ひ廻したのはわたしの好物だからで、ははあ丸太は揚出…

289 我慢するべき理由

ちよいと腹が減つたかなと思ひながら歩いてゐる時に何が危険かと云つて、立ち喰ひ蕎麦屋のつゆの匂ひほど危ないものはない。カレーのスパイス香、大蒜の葷香と並ぶ、日本三大“突然食慾を刺戟する”香りと云つても過言ではありますまい。中でも立ち喰ひ蕎麦(こ…

288 型録一讀

今回の閑文字は我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にまつたく関はらない。外題の示すとほりである。また何らかの結論があるわけでもない。この稿を用意してゐる現在、わたしは色々と迷つてゐて、その色々な迷ひを書きつけておかうといふ、ただそれだけの算段である。 …

287 それではこちらが困るので

丸谷才一の随筆で讀んだ話。ドナルド・キーンとの対談だか雑談で、日本の近代文學でたれが讀み易いでせうと訊ねたところ、言下に谷崎潤一郎の名前が返つてきたといふ。キーン曰く 「文章の構造が論理的で解り易い」 さうで、このゴシップを初めて目にした時…

286 言祝ぐ

光格帝…十八世紀末から十九世紀初頭の御門。 幼名は祐宮(さちのみや)、諱は初め師仁(もろひと)、後に兼仁(ともひと) 在位は安永八年十一月二十五日から文化十四年三月二十二日。 崩御は天保十一年十一月十八日。 三十八年に及ぶ在位中の元号は安永、天明、寛…

285 ソノママ離レ

過日、久しぶりにニューナンブの頴娃君と一献を交す機会に恵まれた夜の話。我われが好む話題のひとつに歴史を題材にしたドラマがあつて、配役を論ずるのは恰好の肴になる。詰りドラマに登場したある人物をたれが演じたかを論評…かどうかは甚だ疑はしいが…す…