閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

081 マーク・ツー

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 手持ちのフヰルム式一眼レフはペンタックスのKマウントで、リコーのXR-8(この手帖の10回目で触れましたね)が中心になつてゐる。中心といふことは、中心ではない機種もあるわけで、画像では28ミリ・レンズが目立つてゐるけれど、今回はボディ…矢張りリコーのXR-7MⅡを取上げる。

 絞り優先式自動露光を搭載した、マニュアル・フォーカス機。詳しい事が知りたければ、リコーのサイトをご覧なさい。別に大した機能を持つてゐるわけでなく、新發賣の当時でも、スペックで見れば既に、時代遅れであつたのは確かである。寧ろ同時に出した、テッサー型の薄いレンズの方が、話題になつた記憶がある。

 出自は曖昧。どうやらXR-8同様、コシナOEMらしい(ニコンのFE10とおそらく同じ)實際はどうだつたか。コシナOEMにも色々の系列があるらしいが、そもそもコシナの一眼レフ自体、よく判らない。仮に判つても、詮索の樂しみは兎も角、知つたところで、知つた満足を得る程度だらうから、そこは目を瞑りませう。思つてゐるよりは、使へるカメラなんである。

 先づ廉いのがよい。わざわざ探して買ふものでもない(今だつたら、ペンタックスMZを探す方がいい)が、精々数千円くらゐで入手出來るだらうから、文句を云ふ値段ぢやあない。そこそこに軽いのもよい。プラスチックを多用してゐるからで、この場合、それは持ち出す積りになり易い点で、プラスに考へたい。

 何よりその廉価と軽さで、自動露光を使へるのが宜しい。わたしの手元にあるのは、いづれペンタックスのSMC-Mレンズなのだが、本家のボディだと、SMC-Aレンズでなければ、自動露光が使へない場合がある。このカメラはボディで出來ることが限られてゐる分、レンズ撰びの範囲が広くなつて、レンズもまた廉価なのを安心して探せるのだから、まことに有り難い。では、どんなレンズが似合ふのか、といふ疑問に繋がつて、これは中々の難問であらう。

 ファインダは十人並みか、それを下回る程度だから、暗いズーム・レンズは使ひにくい。かと云つて、大口径レンズだとボディが釣合はない。このカメラはそこそこに軽くて、取回しが樂なのが利点なのだから、そこをスポイルされるのは困りもする。結局はありふれた28ミリF2.8や、50ミリF1.7辺りが軸になる。どちらも持つてゐるから、云ふのではないよ。35ミリF2でもかまはないし、さういふレンズがあれば、安心して、妙ちきりんな方に目を向けられるではありませんか。

 たとへばシグマの21-35ミリ。碌に使はないまま手放したけれども、ファインダを覗いただけで、歪曲の酷さがはつきり判る(だから当時のわたしの手には余つたのだ)珍レンズだつた。かういふのを笑ひながら、気樂に使ふとして、XR-7MⅡは適役ではなからうか。タムロンの90ミリマクロだつて、きつと惡くない。三脚に乗せ、ピント合せに時間を掛けるのは、今の目で見ると、存外な贅沢になりさうな気がされる。所謂スナップ主義者には、とても受け容れられないだらうが、わたしはそちらに属してゐない。

 或は様々の28ミリ・レンズを使ひ分けてみるのはどうだらう。ここで28ミリを挙げるのは、こちらの好みだから、神経を尖らせる必要はない。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、頭の中で35ミリでも50ミリでも、好きな焦点距離を入れてもらふとして、28ミリのF2.8辺りなら、Kマウントで幾らでも転がつてゐるし、さう大した値段でもない。コシナでもタムロンでもシグマでもビビターでも、勿論SMCペンタックスでもタクマーでも、撰び放題である。ライカだつて、28ミリ・レンズは山ほどあるが、同じ愉しみを得るのに果して幾らの投資が要るだらうと考へたら、ちよいと背中が寒くなる。Kマウント・ユーザでよかつた。

 こんなことを書いたのは、どうやら半年以上振りに、冩眞を撮らうと感じてゐるかららしい。それで偶々、恰好よいなあと思へ(て仕舞つ)た、このカメラを取上げたらしい。ここで云ふ冩眞は、スマートフォンで食事を記録するのではなく、冩眞を撮るぞと考へながら、撮る行為だらうと思ふ。仮に丸1日歩いて、撮れたのが2枚とか3枚とか、それでも問題はなく、さういふ撮り方には、デジタルよりフヰルムが似合ふ。唯一そして最大の問題は、手元のXR-7MⅡにはミラーが上がり切る持病がある。撮つた瞬間、ファインダがブラック・アウトするのだから、初めてこの症状に出くはした時は、おれは今、アサヒフレックス以前のカメラを使つてゐるのかと、勘違ひして仕舞つた。併しさういふ難点があるのを知つてゐて、撮り切らなくてもいいなら、だましだまし、このXR-7MⅡを使ふのは、時代遅れの捻ね者趣味を満足させるのではないかと思はれる。