カメラ…フヰルム、デジタルに関はりなく…の理想形は何だらう、と訊いた時、万雷の拍手をもつて受け容れられる結論が出るとは思へない。鳥を撮るひとと花を撮るひとと星を撮るひとで、それが異なるのは当然だから、結論が出ないのもまた当然と云つていい。その為にレンズ交換が出來るカメラがあるんだよ、といふ指摘は一応のところ正しいとして、併しレンズ交換式が望ましい形なのかとの疑問は残る。詰り結論が出ない。ただここで出ないのは、共有出來る“カメラの理想系”であつて、漠然でも具体的でも、カメラ好きには個々のそれがある。なのでここから先は、わたしが理想だなあと思へるカメラの姿を書く。
◾️コンパクトであること。
小さく、軽く、持運びに不便のない形状を纏めて、かう呼びたい。これでなくては、そもそも使ふ積りになれないもの。
◾️操作はダイヤルとレヴァが中心で。
古いカメラ…たとへばライカを見れば、絞り値とシャッター速度と焦点の位置が、直ぐに判るでせう。ああいふのが望ましい。
◾️フラッシュ及び動画撮影機能の類は不要。
これはごく単純に使はないから。序でにモノクローム以外の画像加工や変換の機能も要らない。
◾️アクセサリ・シューと三脚穴は必須。
案外省かれることがあるので、念の為。
◾️ストラップは二点吊り。
三点吊りならもつといい。
◾️露光の調整はプログラムと絞り優先。
これだけで十分だから。絞り環があれば切替へだつて樂だらうし。
◾️フォーマットは4:3と1:1で。
これも十分。レヴァで変更出來るのがいい。
◾️マニュアルフォーカスは不要。
多点測距も要らない。但しレヴァで焦点の位置を操作出來るなら、それはちよつと慾しい。
◾️スポツト測光は必須。
多少の馴れは求められるけれど、そこを乗り切れば非常に使ひ易い。上記のレヴァで測光点を撰べれば、なほ便利だらうと思ふ。
◾️高速の連寫や超高感度は要らない。
連寫に関してはまつたく興味がないし、感度もISO100~800が使へれば問題ではない。
◾️好みの設定は保存出來る方がいい。
ダイヤル式ならその心配は要らないかも知れないが、細々しいところを一括で保存して、一發で呼び出せるのに越したことはないでせう。
◾️バッテリは乾電池にも対応で。
さう滅多にあることでもなからうが、いざといふ時に、かういふ保険がある安心感は大切だと思ふのである。
◾️レンズは28ミリ/F3.5くらゐ。
ぼけは求めない。開放から全体にシャープであればよい。現代の設計でこれくらゐのスペックなら、容易な解なのではないか知ら。併せて
①最短撮影距離は10センチ未満。
②ズームは要らないが、コンバージョンレンズ等で21ミリと50ミリに対応してもらひたい。
③最小絞り値はF16か出來ればF22で。
といふところを求めたい。仮にズームを採用するなら、24-35ミリのF4だらうか。そんなら28/50ミリの2焦点切替へにコンバージョンレンズも考へられる。たださうなると最初の“コンパクトな”といふ條件から外れるにちがひない。無理をするくらゐなら28ミリ単焦点に注力してもらふ方が、好もしい結果になるだらう。
かう書くと、少々マニヤックな讀者諸嬢諸氏からは、なんだリコーのGRか、その前のGRデジタルがほぼ、相当するぢやあないかと云はれるかも知れず、またその指摘がほぼ正しいのは認めざるを得ない。實際、GRデジタルの2型は一時期愛用もしたが、そのGRデジタルは既に造られてゐない。現行のGRはスタイリングに難がある。その難を説明するのは六づかしいが、GRデジタルで完成したスタイルを、拡大コピーしたことで、それが弛んで仕舞つたと云へば、漠然とでもわたしの云ふところが解つてもらへるだらうか。自分で云ふのも何だけれど、この辺りの評価…といふより好ききらひは、それなりに微妙な要素、或は感情が混ざるものなんである。
それで上に挙げた條件…要望を満たし、1インチかそれより小さい程度の程度の素子サイズの機種を、3万円~5万円で出してもらへはしないか。わたしは金属にフェティーソを感じないたちだから、プラスチックを多用しても(但しスタイリングはプラスチックを活かしてもらはないと困る)かまはない。それで2万円くらゐ追加すれば、3年とか5年とか、アップデートその他諸々、面倒を見ますよと云へば、飛びつくひとはゐるのではないか知ら。カメラ…ことにコンパクトなカメラが賣れないのは、カメラは賣れば終り、後は新型を買つてもらはうとメーカが考へて、そのカメラを含めた使ひ方や寫眞の見せ方を放擲してゐるからで、やつてゐますよと云ふなら、その方法は間違ひだと知つた方がいい。カメラに10万円を出させるのではなく、10万円にはカメラと寫眞の樂しみ(それからトラブルへの対応)も含まれてゐるんだよと、そろそろ方向を変へたつていいんではないかと思へるし、その先鞭をつけるのが、わたしの理想だと思ふカメラであれば、實に喜ばしいのだけれど。