閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

152 妙な飲みもの

 ホッピーといふ妙な飲みものがある。“清涼飲料水”で、主に焼酎(甲類)を割るのに使ふ。それ自体だけでなく、焼酎を含めてホッピーセットと呼ぶこともあつて、この場合、ホッピー自体は“外”、焼酎は“中”と分解される。最初は“外”と“中”が同時に出され、後は“中”(乃至“外”)を好みで追加する。要は割りものの濃さを自分で調へるので、“外”の1本に対して“中”は2杯…詰りお代りをする。それでジョッキに入つた焼酎にホッピーを注ぎ入れ、マドラーを縦に数度動かして飲むのが颯風流。但しホッピービバレッジによると

https://www.hoppy-happy.com/products/hoppy/

『ホッピー・甲類焼酎(25度)・グラスをよく冷やし、焼酎、ホッピーの順に1:5の割合で泡が立つように勢いよく注ぐ(氷は入れず、かき回さない)のが、「元祖ホッピー」のおいしい飲み方』

なのださうで、こちらの飲み方は邪道らしい。尤もビバレッジがラムやジンで割るのも美味いよと云つてもゐるから、そんなに気に病むこともあるまい。それにわたしが足を運んだ飲み屋で、氷抜きの“中”を出されたことはないのだもの。

 なら實際ホッピー(セット)が旨いかどうかと訊かれたら、曖昧な顔つきでまづくないよと応じざるを得ない。まあ最初から最後までこれで押し通さないのは確實で、併しどうかすると妙に飲みたくなる。かういふ場合、お刺身や焚きものは感心出來ず、品下るくらゐに濃い味つけが似合ふ。さう云へばホッピーを教はつた中野の[山ちゃん]…残念なことに今はない…でも、名物と称したもつ煮(かなりしつつこい味つけ)がつまみで、あれはまづくなかつた、ではなく旨かつた。

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 詰りホッピーには煮る焼くかの臓物が欠かせないと思へてゐて、麦酒が適ふのはよく判るし、焼酎ハイがいいのもまた判る。その上でホッピーのセットには画像のやうに臓物を欠かす気になれない。といふより、“外”と“中”に臓物を加へて、正しいホッピーセットではないかとも考へたくなる。かうしてつまみまで決めて仕舞ふ…果してホッピーとつまみのどちらが先なのか…飲みものは珍しい。その視点から云つても、妙な飲みものだなあと思ふのだが、最後の段はただ刷り込まれた結果かも知れない。