閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

222 ゴー・ウエスト

 12月21日、金曜日。

 新宿南口の[東急ハンズ]で手帖を買ふ。高橋書店の“リシェル2”で、消費税込み1,544円。能率手帳と散々迷つて、馴染んだ方を撰んだ。

 その足で歌舞伎町近くの[清瀧]まで。ニューナンブ…漢字を当て嵌めると乳軟部…の4分ノ3が集つて忘年會。混雑してゐたが、思つたほど待たされずに済んだ。序盤は確か、いい話をした筈なのに、丸きり記憶にない。神さまから没をくらつたのだらうか。ハウスワイン、鶏の唐揚げ、ローストビーフのサラド、鯖のへしこなど。來るべき年には、意味もなく泊つて飲まうと話が纏まる。

 12月22日、土曜日。

 起床6時30分。前夜の葡萄酒が少し残つた感じがする。多分ボトル1本くらゐは飲んだ筈だから、当然と云へばその通り。その割りに目覚めは惡くなかつたから、まあよしとしておかうか。

 珈琲にチーズを乗せたトーストをしたためながら、洗濯と食器洗ひ。西に上る為の荷物を作つて11時過ぎに家を出る。曇。微かに雨。東中野驛に併設されたアトレの[成城石井]で葡萄酒のハーフボトルを買ふ。637円。

 11時45分東中野驛發の各驛停車千葉行きで新宿驛へ。お晝をどうするか考へつつ、同51分發快速で東京驛まで。

 一旦驛の外に出る。お土産屋街とでもいへばいいのか、そこに[今半]が店を出してゐたので、佃煮を土産に買ふ。1,080円。それから再び驛構内に戻つて、19番線ホームに上がる。賣店でチキン南蛮弁当を買つたら乗車するこだま657號が入線してきたので乗り込む。11時45分。

 普段ならさういふ眞似はしないけれど、ひどく空腹を感じたので、發車前から、あられを取り出し、ヱビス・ビールを開ける。隣席のおつさんはプレミアム・モルツ。新幹線は定刻通りに東京驛を發車。チキン南蛮弁当は新横濱を過ぎるくらゐまで我慢。

 その新横濱驛に近くなつた辺りで、車内の放送が気になつた。録音済みの音聲ではなく、車掌が喋つてゐる。英語のアナウンスまでこなして、併しどこかカタカナ讀みのやうなところが、妙に微笑ましいが、大変な商賣なのだなあとも思つた。

 ぼんやりしてゐたら、小田原驛に着いたので、チキン南蛮弁当を開ける。タルタル・ソースが美味しさうに見えないのはやむ事を得ないとして、玉子のそぼろがあまいのは感心しない。

 この辺りでヱビス・ビールが空になり、一番搾りに移る。隣のおつさんは月桂冠大吟醸(カップ)を開けてゐる。他人さまの嗜好だから、余計なお世話なのは判つてゐるのだが、いい趣味とは云ひにくい。出羽櫻くらゐ奢ればいいのに。

 さういふことを考へるうち、こだま號は熱海三島を過ぎる。窓外は曖昧に曇り、時に雨。新富士驛に着いた辺りで葡萄酒へ。Vino En Casaといふチリのカベルネ・ソーヴィニヨンを用ゐた[成城石井]獨自の銘柄。壜詰めは勝沼マンズワイン。味は値段相応だけれど、そこが“居酒屋 こだま號”に似合ふ。時計は14時15分。いい具合に駄目な感じがする。お弁当の漬け物とチーズをつまみつつ、醗酵食品は醸造酒と好相性なのだなと思ふ。

 濱名湖を過ぎた辺りから、曖昧な曇り空が曖昧な晴れのやうに見えてくる。大坂で傘を買ふ羽目にはならなささうだと期待したら、三河安城から名古屋を過ぎ、米原辺りで曖昧ではない晴れになつてきて安心する。安心したら記憶があやふやになつて、気がついたら京都を過ぎてゐる。隣のおつさんもゐなかつたから、びつくりしてゐるうちに、我がこだま657號は恙無く新大坂に着到。

 地下鐵御堂筋線に乗換へ(あやふく暖簾に引つ掛りさうになる)西中島南方驛に出て、阪急京都線南方驛から上新庄驛。驛前の商店街は相変らず寂れてゐる。菅公を祀る神社に手をあはせ、15分ほど歩いて帰宅。佛壇にただいまを云つて、風呂を浴び、晩めしは寄せ鍋。いやはや、帰つてきたなあと思ひながら、布団に潜り込む。