閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

230 富士

 この手帖では原則的に画像の説明をしない。見れば判つてもらへることを、わざわざ文字にしても仕方がないといふのが理由。素人の寫眞展辺りで、さういふ例は幾らでもあるでせう。富士山を撮つて、“富士の情景”なんてつけて仕舞ふ。ああいふのは勿体無いなあと思ふ。但し例外はあつて然るべきだし、さうしておかないと、この稿が成り立たない。要するに見せびらかし、また説明をしたいので、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には寛容をもつてご一讀を願ふ。

 では何を見せびらかし、また説明をしたいのかと云へば、ひとまづ画像をご覧頂きたい。カメラのやうな物体である。併しカメラではない。レンズに相当する部分には

「FILM WITH LENS UTURUNDESU」

「SIMPLE ACE f=32mm F=10 1m~∞」

と印刷されてゐるでせう。ああ成る程、富士フイルムの“写ルンです”なのか…と思つてはいけない。いや間違ひとも云ひにくくはあるのだが、正確なところは、“写ルンです シンプルエース”専用のカヴァなんである。

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 1,800円。

 参考までに“Black Edition”は2,000円。

 どちらもストラップとシールがついてゐる。更にシンプルエースもセットになった“Premiumセット”もあつて、そちらは2,700円。別々に買ふよりやや廉価な値段になつてゐる。勿論完全なプラスチック製。そのくせストラップは割りと眞面目で肩首に当る部分には裏布をあててある。高いのか安いのか、よく判らない。1,000円分くらゐはストラップ代ではないだらうか。

 遠目だと同社のX100が連想されなくもない。当然その辺は意識、といふより狙つてゐたらう。上から見ると電源を兼ねた絞り値のダイヤル…を模したパーツがあつて(勿論動かせない)、ちやんとF10が撰択されてゐる。手にすると自然に右手の親指が巻き上げノブに当る。カヴァの分で大きさが寧ろ適正になつた感じがされる。しつかり考へた結果なのか、そもそもX100の設計がよかつたのか。後者だらうな、きつと。

 さて。かういふジョーク品に文句をつけるのはをかしいのだが、それでも云ふ。

①三脚穴がない。底蓋が薄いから穴を開けるのも無理さうである。

②アクセサリシューがない。何かしら飾りになりさうなものを乗せたいのだが。

③レンズ鏡胴部分の径が中途半端で、被せ式のキャップをつけられない。

改めるまでもなく、どれも實際の使用にまつたく支障は出ない。寧ろ

「たかが1,800円の玩具に、一体何を求めてゐるんだらうね、このひとは」

さう呆れられても反論の余地はない。なので云ひわけをすると、これを買ふ積りになつたのは、先づ莫迦ばかしさに笑つたからだが、シールや何やで(惡趣味に)飾りたいと思つたからでもある。上に挙げたのはそれがあると具合がいいといふ事情。かうして文字にすると、どうにも具合が惡い。そられにかう書くと富士フイルムから、そんな閑があるなら、我が社のX100を買つて下さいよと云はれさうで、その気持ちは解る。

 併しまつたく工夫出來ないかと云ふと、さうとも云ひにくい。たとへば粘着テイプで貼るグリップ、たとへばディフューザー、或はケイス。がらくた箱から掘り出せば、それらしい恰好になりさうな気がする。構造の問題を別とすれば、コンパクト・デジタルカメラを中に隠す方法も考へられなくはなくて(手元にあつたアグファ銘のは駄目だつた)、色々と…但し廉価にだけれど…遊べさうである。これひとつだけを持ち出し、富士フイルム謹製の眞面目なカメラを使ふひとの横に立ち、とぼけた顔で寫眞を撮りたいものだが、果してたれから叱られるか知ら。