閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

257 CP+の余話

 前回に書いた通り、CP+へと足を運んだのはリコーのGRⅢが気になつたからで、型録も手に入れた。その点は繰り返して触れない。

 ああいふ場所では各社が型録を配布してゐて、どれもたいへん立派な造りになつてゐる。視認性のよさと比較のし易さで云へば、各社のウェブサイトを見るより、紙を並べた方が、ざつくりと掴みよいと思へるのは、わたしが老人だからかも知れない。併し紙の型録をあれこれ見ながら、架空の買物をするのは、曇つた午后の恰好な閑潰しではなからうか。

 CP+で手に入れた型録はGRⅢだけではなく、外にシグマのsdクアトロのそれがある。新製品ではないが、以前から少々気になつてゐたので、いい機会と思へたからである。シグマがカメラを作つてゐたのかと思ふひとがゐても不思議ではないが、フヰルムの頃から、一眼レフもコンパクトカメラも用意してゐた。ごく初期はコシナからのOEM供給を受けたと覚しいKマウント機だつたが、後に自社獨自マウント(形状はKマウントに酷似するが)に変更をしてゐる。どうも社長個人か、社長周辺も含めてか、そこは判らないが、カメラ本体に思ひ入れがあるらしい。思ひ入れがあつて、それを継續させるのは大したものである。

 シグマにはお世話になつた。最初に買つたカメラはキヤノンのEOS1000とEF35‐80ミリのセットだつたが、交換レンズに撰んだのはシグマである。70‐210ミリ、400ミリ、それから24ミリ。Kマウント機になつてからは、21‐35ミリや28‐105ミリを手に入れたし、今の主力であるマイクロフォーサーズでも30ミリを使つてゐる。お世話になつたといふより、お世話になつてゐると云ふ方が正しいだらうか。タムロン(EOS用28‐200ミリの初代)やトキナー(ニコン用24‐40ミリとリコー用28‐105ミリ)にもお世話になつたが、シグマの比ではない。さういふ背景があるから、あの会社は漠然とではあつても、気になる。気になり續けてゐる。

 それでsdクアトロの型録を見ると、何と云へばいいか、紙は上等だけれど、非常に野暮つたい。カメラとしては、機能も外観も異色といふ外にないのに、言葉の撰び方や文字の使ひ方、寫眞の用ゐ方、それらがどうにもかうにも不細工…が惡ければ古ぼけて、その特異さを丸で感じられない。いちいち引用して論評をするのは苦痛だから省略する。かう云ふと丹念に讀めば解ると反論があるだらうが、そもそも丹念に讀まうと思へないのだから、その反論は成り立たない。わたしがこのカメラの変態具合(褒め言葉)を知つてゐるのは、型録以外で情報を得てゐたからで、型録の酷さはもしかすると、広告屋の惡辣な営業(惡辣でない広告屋の営業があるとして)に騙された結果ではないかと不安になつてもくる。シグマのひとが、広告といふ手法に無邪気過ぎた可能性もあるけれども。尤もsdクアトロ自体は、型録から受ける“奇妙なスタイルのカメラ”といふ貧弱な印象に収まらない。相応の経験を持たないと、100%の實力を発揮させるのは六づかしからうが、腰を据ゑて使はうと思ふなら、急激に旧くなる心配が(少)ない点でも惡くない撰択ではないか。

 そこで架空の買物をするとして先づ2種類あるボディは、ノーマルな方で30ミリのキットにする。これはオープン価格。それに10‐20ミリ(94,300円)を追加する。シグマにはフルサイズ対応のレンズもあつて、sdクアトロでも使へるけれど、APSフォーマットのボディにわざわざフルサイズ対応のレンズを撰ぶ必要はなからう。後はパワーグリップ(32,000円)だらうか。はつきりしてゐる希望小賣価格126,300円にキット価格が幾らなのか知らないが、合計すると250,000円とかそんなくらゐだらうか。ぱつと見、えらく高額に感じられるが、キヤノンの最新型EOS Rだとかニコンの最新型Z7のボディに較べれば廉価な筈で、更に小賣店での割引きまで考慮すると、差額はもつと大きくなるだらう。と書いてから現實に戻ると、間もなく發賣になるGRⅢは、どうやら120,000円前後の価格になるらしい。仮に上記のsdクアトロが250,000円で賣られてゐるとしたら、GRⅢ2台分にほぼ相当する計算になる。それでどちらを撰ぶかと訊かれたら、(シグマのひとには申し訳無いが)GRⅢを撰ぶのに躊躇ひはない。2台は買はないとしても、残りのお金でそのGRを持つて、ちよつと贅沢な旅行に出る方が余程、好もしい遣ひ方なのは疑念の余地がない。かういふ勝手な想像を働かせられるのも、型録の余祿であらう。