閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

300 曖昧三百

 “数の性質”は[数の帝国]といふサイトのコンテンツのひとつ。

 

https://ja.numberempire.com/300

 

 そこを見ると、フィボナッチ数/ベル数/カタラン数/規則的数(ハミング数)/完全数/多角数なんて項目があつて、何の意味か、さつぱり判らない。数學的な素養がゼロなのは、こんな時に解説自慢が出來なくて困る。

 Wikipediaの概要に目をやると、“自然数、また整数において、299の次で301の前の数である”と無愛想だが、まあこちらの身の丈にあふのは、こんな感じになるか。

 

 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/300

 

 三百といふ数字は六づかしいなあ。と嘆くのはわたしの都合に過ぎない。第一、二百九十九や三百一なら六づかしさが減じるのかといふと、そんなわけもなく、かういふあやふやな感覚は、数學的な素養の無さと殆ど直線で結ばれてゐる。

 そんなら数助詞なり単位なりをつければ、漠然とした三百より、判り(想像がし)易いのではないか。たとへば三百キログラム…シベリアトラの雄がこれくらゐになるらしいが、もうひとつ、ぴんときません。三百メートルならどうだらう。“一粒三百メートル”といふ有名な惹句は浮ぶとして、だから何だらうとも思ふ。尤も江崎グリコはその辺の抜りがなく、“なぜ?なに?コーナー”で

 

 ◾️Q.「一粒300メートル」とはなんですか?

◾️A.「アソビグリコ」 (キャラメル) には、実際に一粒で300メートル走ることのできるエネルギーが含まれています。「アソビグリコ」一粒は 16.5 kcal です。年齢20歳の男性が分速160m で走ると、1分間に使うエネルギーは 8.71 kcal になります。つまり 「アソビグリコ」 一粒で 1.89分、約300m走れることになります。

 

 https://www.glico.com/jp/customer/qa/2681/

 

語呂のよさだけで決めたフレイズではなかつたのだ。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、ご存知でしたか。併しこれで三百メートルを掴めるかといふと少し怪しい。史上最大級の戰艦である大和型の全長が二百六十三メートル、大改装を施した宇宙戰艦ヤマトで大体三百メートルくらゐ。判り易いのかどうか、疑問が残りますねえ。

 なので三百人に目を向けてみる。東京には百人町といふ伊賀組百人鐵砲隊に因んだ町名があるけれど、流石に三百人は無からう…と思つたら、宮城県仙台市若林区に三百人町があつた。

 

http://www.city.sendai.jp/waka-katsudo/wakabayashiku/machizukuri/miryoku/jokamachi.html

 

  仙台市の紹介によれば、由來は“足軽三百人衆が住んだ”為と書かれてゐて、同じ理由で五十人町六十人町があるのが何となくユーモラスである。ユーモラスではあるが、微笑が浮ぶくらゐで、そこから先には進みにくい気がする。

 同じ三百人なら、陰謀論で有名な三百人委員会を挙げる方がよからうか。十八世紀初頭、英國で成立した“影の世界政府の最高機関”ださうだが、イルミナティだのフリーメイソンリーだの、中學生男子が舌舐ずりしさうな名前(どちらも實在はしますよ)が並ぶ程度で實感に乏しい。

 併しまあ、ヤードポンドでも、ドルでもフランでもマルクでも円でも、棹(箪笥の数へ方)や刎(ハネと訓む。冑の数へ方)や枝(薙刀の数へ方)でも、三百を頭に置いてしつくり収まるのかと云ふと、甚だ怪しいね。況んや三百回と云つたところで、何といふことにもなりますまい。念を押すとこれは、三百といふ数字の罪ではないから、かう書いたところで、[数の帝国]への叛旗と受け取られる心配はしなくていいと思はれる。