閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

323 R1s(リコー)

 リコー・ファンである。理由を話し出すと切りも纏まりもなくなるので、その辺は詳しく触れない(まあさうなのだなと思つてもらへればいい)我が親愛なる讀者諸嬢諸氏の中にもファンはをられるだらうが、きつと殆どはGR(デジタル)のファンではなからうか。

 そのGRはフヰルムのGR1に遡れ、GR1から更に遡つたところにあるのがR1で、R1の後継機がR1sである。ざつと三十年前のコンパクト・カメラ。リコー・レンズ30ミリを搭載し、パノラマ撮影が出來る。このパノラマは当時流行つた、天地をマスクする擬似的な代物。確か一眼レフでも、採用した機種があつたと思ふ。

 それより本体の厚みに注目したい。パトローネを入れる箇所以外は、それより薄く仕上げてあつた。曖昧な記憶なので、信用してはいけないけれど、かういふ薄いカメラの例が無かつたのは、ほぼ間違ひない。これもまた曖昧な記憶だが、初代が發表された時、その大きさ…訂正、小ささが注目されたからで、特許なのか何なのか、他社が追随しなかつたのは不思議である。

 機能としてはその頃のコンパクト・カメラとすれば当り前の程度。多点測距の動作が標準(中央一点への切替へは可能だが、電源を切ると多点測距に戻る)なのを除けば、使ひ勝手は並みの出來。寫りも同様。併し鞄の隙間にはふり込める並みの寫りのカメラが外に無かつたからか、相応に賣れたのだらう。でなければGR1に繋がることはなかつた筈で、当時の担当者は胸を張つていい。かう書くとR1sはGR1(からデジタルGR)への過渡機かと理解されさうな気がする。一面としては正しい。併しその正しさは一面でもある。

 ここでR1sには、(擬似)パノラマ撮影機構が搭載されてゐることを思ひ出して頂きたい。この機種のパノラマ機構は二段階になつてゐる。30ミリの画角でのそれがひとつ。もうひとつはワイド・パノラマと称した24ミリ画角での撮影が出來る。詰りマスクをどうにかすれば(周辺光量の落ちは兎も角)、30ミリと24ミリの二焦点レンズで使へる。實用性は別として、さういつた遊びの余地があるカメラには好感を抱けるといふものだ。