閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

040 ねばならぬ

 ある食べものをどんな風に仕上げ、またどう食べるかといふ設問は本來無意味である。そンなもん、気分で決めたらエエんよ、気分で。さう居直るのが正しいしまた旨くもある。
 食べもので“ねばならぬ”を云ふほど、莫迦げた態度はない、併し結論を出すかどうかは措いて、議論や思考の種になるのもまた事實で、今回はさういふ話…といふよりも順不同で敬称略の箇条書き。

■うで卵
 堅茹でに限る。

■目玉焼き
 半熟。添へるのはマヨネィーズが基本。ごはんにあはせる場合は少量の醤油を加へて宜しい。

■天麩羅
 天つゆ(及び大根おろし)及び塩。種によつて使ひ分けるのが本來だが、ここは天つゆ。

■ベーコン
 薄切りをかりかりになるまで。

■カレー・ライス
 混ぜるのは野蛮人。

■コロッケと鯵フライ
 揚げたてでなければ醤油。

■牡蠣フライ
 ウスター・ソースにちよつぴりのチリー・ソースを忍ばせて。

■焼き鳥
 たれ。

■焼そば
 ソース。大量の紅生姜は必須。

■ラーメン
 醤油。海苔ともやしは敵。

■酢豚
 パインアップルを活用しない、ケチャップで甘つたるい酢豚に何の値うちがあるだらうか。

冷し中華
 焼豚煮豚ではなく、ハムを使ふべし。マヨネィーズを添へるのは東海人に任せればよい。

■ポテト・サラド
 馬鈴薯は念入りに潰すこと。また薄切りにした酸味のきつい林檎(季節によつては八朔も可)は不可欠。

■餃子
 焼餃子。酢醤油に少量の醤油。それから大量の潰したにんにく。神戸で一ぺん、とんでもなく美味い辛味噌で喰つたが、あれは稀有な例外とする。

■豚まん
 肉まんと呼ぶべからず。辛子醤油で食べるべし。

■肉じやが
 当然、牛肉。ビーフ・シチューの勘違ひだもの。

■ポーク玉子
 玉子焼きは薄手の堅め。あはすのはハインツ。

■ちやんぷるー
 オリオン・ビール抜きだつて?

泡盛
 残波。カリー春雨。菊乃露。

■麦酒
 バス・ペールエイル。ギネス。ヱビス

■フィッシュ・アンド・チップス
 信用出來るお店でなければ、ヴィネガーは避ける方が無難。

ビーフ・ステイク
 ミディアム。

■生ハム
 オリーヴ油と黒胡椒。

■ピックルス
 どうして甘く仕立てたがるのかなあ。

■酢のもの
 蛸と若布と胡瓜。濁り酒で。

■お漬け物
 野沢菜、白菜、胡瓜。

■鮭
 塩焼き。皮を残すのは邪道。

■秋刀魚
 膓があつてこそ。

■鮪
 赤身。

■大根
 おろし。

■お味噌汁
 溶き卵と薄切りの玉葱。

■卵かけごはん
 かき混ぜはざつくり。醤油はちよろり。ごはんに埋めるのが正しいし美味い。

 他にも挙げてゆけば切りはないが、まあこれくらゐにしておきませう。同意でも反論でも異論でも、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、閑潰しにして頂ければ成功だと思はれる。