閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

168 平成最後の甲州路 番外篇

 甲斐國に行く以上、寫眞は撮りたい。常用するスマートフォンのSHV33も使ふけれど、矢張り寫眞機で撮りたいもので、何故さうなのかと訊かれても返答に窮する。さう思はないひとがゐても不思議ではない。何しろ近年のスマートフォンに搭載されたカメラ機能は侮れないもの。さういふ方法もありだと思ふ。といふことは、さうでない方法もありで、颯風はそちらに属する。ひとそれぞれとはかういふ場合に用ゐるものだ。それぞれはそれぞれでいいが、では何を持出すかといふ問題が残る。カメラもレンズもこの何年、買つてゐないから、手元に何があるかは判つてゐる。頴娃君はフヰルムを使ひたがつてゐて、そこにはプリントも含まれる。フヰルムを使ふのに異論を唱へる積りはないが、そんならモノクロームで撮りたいから、ここでは除外とする。

 デジタルカメラはGF1(パナソニックの旧式)とS640(ニコンの旧型)がどちらも現役で、前者はレンズの交換が出來る型、後者は最早絶滅に等しいコンパクト機。両者を併用しても仕方がない。なのでS640の役割はSHV33に任せてGF1にする…と實のところ、ここまではすんなり、決つた。残つた筈の問題だつたのに、いい加減な態度と叱られさうな予感もするが、颯風の藝風だとご容赦賜りたい。それで寧ろ本当の問題はここからで、詰りレンズをどうするのか。手持ちはパナソニックの14‐45ミリとシグマの30ミリ。どちらもわたしが撮る分には十分な性能を持つてゐる。だつたらどちらか、或は両方を使へばいいぢやあないのといふことになりかねず、またその指摘は正しくて説得力もあるのだけれど、何となく落ち着かない。

 暫く眞面目に寫眞を撮つてゐないところに、富士フイルムがXF10を發表だか發賣だかのニューズを目にしたのが、夏の前のこと。細かいことはご自身で調べてもらふとして、ごく簡単に28ミリ単焦点レンズを採用したAPSフォーマットのコンパクト機である。これには心動かされた。経験的に云へば使ひ易い焦点距離だし、スタイルだつて惡くない。先代に相当するX70と較べて、幾つかの機能が削られてゐる分、多少廉価になつてゐるのもいい。先行するリコーGRⅡのスタイルが感心しないこともあつて、余計にそそられもした。要するにちよいと、慾しくなつたのだが、現實の話と考へる前に、フォトキナでリコーがGRⅢの開發を公表した。未完成の状況だから、未詳の部分が大半なのは仕方がないとして、公開された範囲を見る限り期待出來る。この時点でXF10への慾が保留になつたのは、旧式のGRデジタルを常用してゐた時期があるからで、リコーファンの礼儀だからでもある。

 それはいい。

 いいのだが併し、XF10で刺戟された物慾は残つて仕舞つて、さてこちらはどうすればよいか。どうやら物慾の中心は28ミリの画角であるらしく、更に云へばズームレンズは駄目らしい。因果関係の因は兎も角、28ミリは馴染みのある焦点距離だから、果の方は何となく納得出來る。気がする。手元にSMCペンタックスの28ミリはあるが、これはフヰルム式カメラ用。どうしても使ふなら、これに対応する本体が必要になる。これは今のところK-1Ⅱだけだから、流石に買へない。ではGR(デジタル)やX70の中古品はどうかとなるのだが、惡くはない。惡くはないとして、だつたらGRⅢまたはXF10を保留したのは何故だとなる。最も簡単な方法は買はないことで、それで困らない筈である。パナソニックの14‐45ミリは28ミリ相当で始まるのだし、ズームは駄目だなんて、我が儘だよ。

 うーむ。説得力があるなあ。

 問題はその説得力が正しい理窟といふ点で、物慾は正しい理窟に立つてゐない。慾しいから慾しいに対抗するには、別の方法でなくちやあならない。その“別の方法”が浮んでこないのがわたしの駄目なところで、だつたらせめて、惡影響を小さくする方策を探さねばなるまい。要は、如何に廉で抑へるかであつて、實はひとつ、目処がある…ないわけではない。パナソニックの14ミリF2.5といふレンズがそれで、ズームレンズより明るい上に、取りまはしも樂である。何よりデジタルカメラ特有の“ボディの古さ”問題…たとへば感度、或は画像処理の能力…から距離を置けるのがいい。Ⅱ型もあるが、外観を変更しただけらしいから、旧型を中古で狙ふ方法がある。多分10,000円から15,000円の間くらゐだから、GRデジタルの中古を探すよりは廉価であらう。

 惡くないね…まつたくのところ。

 併しここでひとつ文句を云ふ。マイクロフォーサーズで28ミリに相当する単焦点レンズは、今のところ、この1本しか用意されてゐない。實に使ひ易い画角なのに。半ば本気で思ふのだが、寫眞を眞面目に撮るぞと考へてゐる諸嬢諸氏には、28ミリ(相当)と55ミリ(相当)の2本を最初に使ふのがいいのではないか。いちいち理窟を述べるのはこの稿の本意ではないから、踏み込まないけれど、寫眞を撮る…もつと云へば愉しむひとを増やさないとメーカーは立ち行かなくなるのは念を押すまでもなく、その点だけから見ると、28ミリ相当が1本しかない現状は各社の怠慢ではないか知ら。

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 さう考へてから、實際どうなのだと、中古屋を覗きに行つた。新宿と中野。さうしたら案外なほど、見当らなかつたから、かろく驚いた。13,500円のと16,200円の2本だけ。前者は“小クモリ”で、影響は無ささうだつたがそそられず、後者は何となくその気になれなかつた。何となくくらゐなら買つてもよからうにと云はれさうだが、かういふ時の“何となく”に目を瞑ると、大体の場合、後で失敗したなあと思ふのが経験だから、止めにした。わたしの特技のひとつは優柔不断だから、妥当な結果であつたと云つて、間違ひではない。とは云へ優柔不断であるから、慾しい気分まで収まつたわけではない。28ミリに拘泥しなければ、オリンパスに17ミリ…34ミリ相当のF2.8があつて、これならもう少し廉の入手も無理ではないのだが、この辺の画角にはちよつと苦手意識があるので、わざわざ苦手を買ふこともないと思はれた。

 優柔不断な気分のまま、ふいつとがらくた函を覗き込むと、オリンパスの28ミリ用のフードが転がつてゐた。49ミリである。使へないかなと考へたが、エツミだつたかのフジツボ型と呼ばれるフードをつけたシグマの30ミリはフヰルタ径が46ミリである。さうしたらそのがらくた函の隅に都合よく46/49ミリのステップアップ・リング(ケンコー製)が見つかつたので交換してみた。さうしたらレンズ本体とリングの見た目がしつくりして、フードも中々似合ひ、わたしの目には恰好よく映つた。なのでこれでかまはないんぢやあないかと思へてきた。要は気分が変つただけなのだが、気分が変つて無駄遣ひを留められるなら、惡くもなからう。14ミリをどうするかは縁の話と考へて、今の時点で甲斐國に持ち込むのはさうすることにしておかう。