2018-11-05 185 棘 煙草を、とそのひとはいふ。 僕は、キャメルを差し出す。 火を、とそのひとは續ける。 僕はジッポに、火を点ける。 烟がしづかに、立ちのぼる。 粗末なソファでの、三秒間。 雄弁は時に、沈黙に届かず。 囁きは時に、叫びに等しく。 優雅な誤解と、冷酷な愛情。 記憶は、火傷の痕のやうに。 痛罵と抱擁と、そして唾液。 痛みと痒み、快さの混合酒。 もしもあの夜、もしも僕が。 烟はたゆたふ、棘のやうに。 揺蕩ひ續ける、棘のやうに。