閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

271 新しい元号(發表の後)

 “令和”が新しい元号だといふ。

 “レイワ”が訓み。

 典拠は萬葉集(巻五/詞書)ださうで、我が邦の古典から引かれるのは初めてとのこと。

 元号に“令”が用ゐられるのは初めて。

 対して“和”は二十回目。

 新人とヴェテランの共演といふことになる。


 取り急いで[漢字/漢和/語源辞典:OK辞典]で“令”のを調べると

https://okjiten.jp/sp/kanji686.html

①「命ずる」、「いいつける」

②「法令などを世の中に広く知らせる」

③「みことのり(天皇の命令)」、「君主の命令」

④「のり(法律、規範、おきて)」

  (例:律令)

⑤「布告書(広く国民に知らせる書類)」

⑥「いましめ(前もって注意する事)」、「教訓(教え)」

⑦「おさ」、「長官」

  (例:県令)

⑧「よい」、「立派な」、「優れた」

  (例:令名)

⑨「他人の親族に対する敬称」

  (例:令兄)

⑩「皇后、太子、諸侯などの命令文」

⑪「しむ(~させる)」

⑫「しめば(~だとしたら)」

⑬「もし」、「たとい(たとえ)」

  (例:仮令、縦令)

⑭「とし(年)」

  (例:年令)


 念の為に[漢字辞典オンライン]でも確かめると

https://kanji.jitenon.jp/sp/kanjib/632.html

[1] いいつけ。上の者からの指示。

[1] おさ。長官。

[1] よい。すぐれた。立派な。相手の親族を敬っていうことば。

[1] のり。おきて。決まり。法律。

[2] しむ。せしむ。「令AB~」の形で、「AをしてBせしむ」と読み、「AにBをさせる」の意。


 “上位者からの指示”といふ些か高圧的な意味合ひと、“よい/優れた/立派”の意が同じ文字に含まれてゐるのは不思議だが、まあ八釜しいことは云ひますまい。


 ところで詞書は兎も角、巻五の冒頭歌を見ると、大伴旅人が詠んだ“太宰帥大伴卿の凶問に報へたまふ歌”で

 禍故重畳、凶問累りに集まる。永に心を崩す悲しみを懐き、独り腸を断つ泣を流す。但両君の大助に依りて傾命纔に継ぐのみ。筆言を尽さず。古今歎く所なり。

 世の中は空しきものと知る時しいよよますますかなしかりけり

といふ序言も含めて何とも寂しい一首だつたから少し驚いた…そんなところまで気にしなくたつて構はんでせうと云はれたら、確かにその通りなのだけれど、わたしに限らずちよいと調べたひとだつて、少からずゐるのではないだらうか。


 ここで今上陛下に、新しい元号を言祝ぐ(景気のいい)一首をお詠み頂ければと思ふのは、贅沢な望みなのか知ら。