閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

460 化石レンズを使ふ為

 ペンタックスM50ミリ/F1.7といふレンズが手元にある。同じペンタックスのM28ミリ/F2.8といふレンズもある。古い冩眞機好きから

 「化石のやうだね」

と笑はれさうであつて、またそれは正しい。何しろどちらもプログラム露光に対応しない(絞り値優先の自動露光では使へるけれど)レンズだからね。

 フヰルムで冩す分に文句は無い。特別に優れた描冩をするわけではないけれど、目を覆ひたくなる破綻もせず、ある時期のペンタックス…旭光学工業の性格がそのまま形になつたのかと云ひたくなつてくる。

 このレンズで採用されてゐるKバヨネット・マウント、實は意外なくらゐ便利がいい。M42ねぢマウントとの互換性が(原則的に)保たれてゐるのもさうだが、現行機でも大体は使へて、融通の幅で云へば"不滅の"ニコンFバヨネット・マウントを凌ぐのではないかとも思ふ。

 「そんなのは實用的ではないよ」

生眞面目な冩眞愛好家から叱られるのは然りとして

 「實用的ではない使ひ方をしてはならない、といふ理由はありませんな」

さう異議を唱へてもいい筈である。眞面目に撮るなら、眞面目に撮る為のカメラとレンズを揃へれば済む事で、さういふ話はこの手帖の手に余る。

 周章てて念を押すと、ペンタックスが眞面目に撮るのに不向きだと云ふのではない。あすこは實直の一方で、ライカねぢマウントの47ミリや、17-28ミリだつたかの魚眼ズーム・レンズといつた妙やレンズを出したがる癖があつて、それも面白がりゆゑではなく、一応の理窟をもつて(無理やりな感じもある)出してくる。

 うちにしか、出せんでせう。

 さう嘯いてゐる気がされなくもない。いやいや、あなたたちしか出さうとはせんでせうさ、と口惡く云ひ返してもいいが、云ひながら喜んでゐるのもまた事實で、さういふ会社のカメラをちやんと持つた経験が無い…買つた記憶があるのはSPとK2DMD、それからMZ-5の三台…のは、自分でも不思議でならない。手持ちの二本のレンズは今、リコーの一眼レフに附けてゐるが、折角だからデジタルでも使へる準備はしてもいいのではなからうか。

 眞つ当に考へればK-1(Ⅱ)であらう。所謂フル・サイズで、28ミリや50ミリの画角をそのまま使へる利点がある。その一方、このカメラは大柄に過ぎ、重過ぎる。第一この位取りになると、現行のレンズを中心に据ゑ、腰も据ゑて使ふのが本道に思へる。それでK-01を候補に考へてみた。これはKバヨネット・マウントをそのままミラーレスにしたヘンタイ(褒め言葉)カメラで、マーク・ニューソンのデザインはどこかが致命的に間違つてゐるのだが、その間違ひ具合も含めてペンタックスらしい。但し手持ちのレンズを使ふには不便が大きすぎる。

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 では矢張りリコーで使はざるを得ないのかと云ふと、まだKPがあつた。これもまたペンタックスらしく、をかしなヴァージョン(その画像を借りてある)を出してゐて、その妙なヴァージョンが恰好いい。モダーンなのだか、クラッシックなのだか、その辺をごちや混ぜにした感がある。かういふ機種は案外と無いもので、我が辛辣な讀者諸嬢諸氏の云ふ"化石のやうな"レンズでも様になるのは狙つたからか、偶々だつたのかは(どちらにしてもニコンでは出來ないだらう)解らない。その辺の事情には目を瞑るとして、ペンタックスの化石…いやシーラカンス・レンズで遊ぶとすれば、見た目も含めてKPは惡くない選択ではなからうか。後はGRの28ミリをKバヨネット・マウントにしてくれれば、躊躇する理由はまつたく無くなるのだがなあ。