閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

525 曖昧映画館~レッドブル

 記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。

 

 バディものと呼ばれる映画がある。『48時間』や『リーサル・ウエポン』を出せばいいか。或は変形として『ダイ・ハード』と『ビバリーヒルズ・コップ』も挙げておきたい。基本的な構造は眞面目…といふより堅物の黑人と、正義感はあるが軽薄な白人が、何かしらの事情で…半ば無理やり…コンビを組まされ、反發しあひながら、最終的にはお互ひを信用して、事件なり問題なりを解決に導くといふ筋立て。肌の色や物の考へ方の対立を軸(の一方)に据ゑるのが、如何にもアメリカ的だなあと思ふ。

 そこを変に捻つたのがこの映画でコンビは白人同士…但し片方はアメリカンな、もう片方はソヴェト(公開当時はソヴェトといふ國家が存在してゐた。参考までに権力の頂点に立つてゐたのはミハイル・ゴルバチョフ)の警官。よくまあこんな組合せを思ひついたと感心するが、ポリティカルな色彩はまつたく無い。アーノルド・シュワルツェネッガー演じるソ聯警官のダンコーが、母國で活躍するのは冒頭の僅かな時間だけで、アメリカに逃亡したギャングのボス、ビクトルを追ひ掛けることになるから、後は刑事ものである。

 尤も前段でポリティカルな色は無いと云つたが、ダンコーはあくまでも愛國的な刑事…終盤、ビクトルをアメリカ製の拳銃で射殺した後、"矢張りソ聯製の方がいい"と云ひ放つてゐる…として描冩される。(結果的に)相棒(となつたアメリカ刑事)のアメリカ礼讚には一切首肯しないのだが、そこきソヴェト批判やアメリカへの皮肉を意図があつたとは考へにくい。要するに勤勉と怠惰や黑人と白人以外に、キャラクタのちがひを出さうとした(冷戰も終りさうな時期、ソヴェトも文句は附けないだらうと讀んだ気がする)結果なのだらう。

 その辺の意味をなさない推測はさて措き、アクション映画として観ると、当り前に面白い。ウォルター・ヒルが監督なのだからね。もしかしてソヴェト警官…無愛想で融通が利かず、糞眞面目を取り柄と呼ぶしかない印象の…を主人公にしたのは、シュワルツェネッガーの大根役者ぶりを活かした妙手であつたやも知れない。何にも考へないで、兎にも角にもすつきりしたい夜に、これほど適した一本もさうさう見当らない。露米の警官が別れる最後の場面、ふたりは腕時計を交換する。そこでダンコーは云ふ。

 「おれたちは警官だ。友情を持つたつていい」

バディといふのは、いいものだ。