閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

545 實際どうしたつて旨いんだもの

 實際どうしたつて味噌は旨いのだから仕方がない。

 

 汁椀や田樂に用ゐるのは勿論、味噌焚き、味噌焼き、味噌漬け、味噌炒め、胡瓜やセロリーにつけても旨いし、面倒ならそのままつまんだつて旨い。軽々しく云ひたくはないが、万能といふ言葉が浮んでくる。味噌が万能であれぱ、味噌ラーメンが旨いのだつて当然の筈である。

 と思つてゐたら、近所のお店のメニュに"特製味噌ラーメン"と書いてあつた。食べることにした。

 ところでその味噌ラーメン。滅多に食べない。旨いまづいとは別に、口に適ふあはないがはつきりしてゐると感じるからで、正直なところ、あはない方が多い。あはないのはくどく感じるからで、そのくどさは豚骨にあるのではないかと思へる。まあわたしの舌が云ふことなので、その辺は割引きしてもらふ必要はある。

 だつたら偶さか見掛けたメニュを見ただけで、食べることにしたのは何故だと訊かれるだらう。それには見掛けたメニュは偶さかだけれど、お店自体は何度か、或は何度も訪れてゐて、味の調へ方が好みに適ふのを知つてゐたからだと応じておく。序でに云へば、その調へ方は全体に穏やかで人によつては物足りなさを感じるやも知れない。

 

 坐つた卓子の向ひの席に、元お姉さんの三人組が矢張り麺の丼を前に置き、麺とソップを啜りながら色々とお喋りをしてゐる。前後の関係は解らないが、近くの会社に勤める同僚らしく、その場にゐない同僚だか先輩だか後輩だか、困つたひとなのよと樂しさうに惡くちを叩いてゐる。ああいふのも調味料なるのかなと思つてゐたら、註文した味噌ラーメンが運ばれてきた。

 ぱつと見て、ソップが白つぽいなと思つた。啜つてみるとあつさりとほのあまい。お味噌汁風かな。以前に食べた醤油ラーメンのソップにも、少し蕎麦の雰囲気があつた。庖丁を持つてゐるひとは、和食の経験があるのだらうか。

 隠れてゐる具は豚肉と白菜の炒めもの。キヤベツを使はないところに感心した。汁椀の種が意識にあるのか知ら。麺も啜る。ちよつと捌き方が足りないのは残念だが、ソップとの相性は宜しい。煮卵を囓る。宜しい。叉焼を囓る。これも宜しいが、脂つこさはやや不釣合ひに思へるし、白菜との炒めものと重なつてゐる。厳しく云へば"特製"を名乗るには少し計り詰めが足りない。

 尤もくどくどしさのない調味…味噌の撰び方扱ひ方なのだらうな…は、まつたく好みに適ふもので、難点をあげつらふより、そつちを樂むのが健全な態度である。評論などといふ詰らないことは評論家に任せればいいのだ。じわりと汗が滲むのを感じながら、そんな風に考へた…と書けば嘘になる。いや汗が滲んだのは本当だが、面倒なことを考へつつ味噌ラーメンを食べられるものか。

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 實際どうしたつて味噌は旨いのだと納得しながら、丼を空にしてお店を出た。元お姉さんのお喋りはまだ終らない。