閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

637 この時点の感想

 某日、ニコンから新型機種…Zfcの發表がありましたな。

 

https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_fc/

 

 詳しいことは上を見れば大体、解ると思ふ。尤もこの稿を書いてゐる時点では、發賣前だから、實機がどうなのかまでは、はつきりしない。

 發表された製品の画像を見て、二重の既視感を覚えた。ひとつはDf、意余つて力の足らなかつた(ことにスタイリングの部分で)ライカ判フォーマットのデジタル一眼レフ。Zfcの直接のご先祖と云つていい。もうひとつはFM/FEの名前を持つフヰルム一眼レフで、Dfの源流はここに辿り着く。

 

 併しフヰルム・ニコンの系譜を見れば、FM/FEの系列は二番手三番手辺りの位置附けであつた。わざわざデジタル・カメラに転用するのは、不思議にも思はれる。そんならいつそFやSPまで遡ればいいのに。

 勿論これが無理筋なのは解つてゐる。

 と云ふのも、我われが"カメラ"と聞いて思ひ浮べる、衒いのないカメラの姿がFM/FE系のスタイリングだからで、後はペンタックスのSPくらゐではないか知ら。

 そんなことを云つたつて、フヰルム・カメラの形態は求められる機能から、自動的に導かれるでせう。と反論が出さうに思はれるが、その指摘が正しくないのは、中古カメラ屋の棚に並ぶ機種の姿が證明してゐる。

 

 ニコンの新型に話を戻しませう。

 まあまあ、恰好いい。といふのが第一印象。

 尤も色々な方向からの画像を見ると、ちよつと強引な感じもした。ことに正面から見て右肩に配置されたダイヤルに、感度の変更を割当てたのは、使ふ頻度を考へると、無理やりではないかと思ふ。

 もうひとつ、正面左側のダイヤルは必要なのか。いや必要と判断したから配置したのだらうが、一体であるべきボディに穴が開いたやうに見えて気に入らない。

 更に云へば、正面右側のZfcのロゴ・タイプがどうも安つぽく、ペンタプリズム相当の場所に配した旧型のニコンのロゴ・タイプと不釣合ひなのは感心しない。この辺りの詰めのあまさが如何にもニコン的、と笑つていいのか知ら。

 くさすだけでは藝が無い。ここらで褒めると、新しく用意した単焦点レンズとの組合せは惡くない。かういふ懐古趣味をお好みでせうと云はれてゐる気がしなくはないが、似合ふのは確かである。標準よりやや広い画角で、そこそこ寄れもするから、附けつぱなしで不便はなからう。

 

 これで予想価格が十六万円。廉とは云へないにせよ、(ニコンとすれば)妥当な値つけかと思へる。爆發的に賣れはしまいが、熱心な愛好家は生れるんではないか。

 但しこの先、Zfcが長續きするかどうかは、不安が残る。第一にZマウントのレンズが絶対的に少く、第二にそのライン・アップでZfcに似合ふのは上に挙げた一本きりで、ここをどうにかしておかないと、Dfと同じく、"跡継ぎに恵まれない一台"に…あのカメラは遂に一眼レフ形式の後継機を持たなかつた…なりかねない。

 もう二本、似合ひの広角系と中望遠系の単焦点レンズで、小さなシステムを作れば…小聲で云ふと、本心はEM銘で顕れてほしかつた…、愛好家もきつと、このカメラの本気を感じるだらうし、さうなつたら、Zfcといふスタイリングをひとつの系統として扱ふんではなからうか。好事家の愛玩物に成り下つてはならんと思ふのだが、これはこの稿を書いてゐる時点での感想なので、何かを保證してゐるわけではない。