閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

660 懐かしの酒席

 厚揚げはたいへん便利だと思ふ。焚き合せていいし、炒めものに入れるのも旨い。厚揚げ自体がうまいのは勿論、出汁やら調味料、あはせる様々な食べものの味まで巧みに受けるからだと思へる。

 鶏肉と青菜と厚揚げを薄味でさつと焚いたのなんて、嬉しいですな。厚揚げ(小さく切つたやつだらうか)が鶏の膏を受けるところが、まつたく一ぱいの味を引き立てる。

 臺灣の家庭料理(ちがふかも知れない)で、酢豚の要領で豚肉ではなく厚揚げを用ゐた料理…確か家常豆腐…も、獸肉を使はないのにうまい。渾然の旨さと云へさうである。

 併し揚げたてかざつと焙つたやつが、一ばん旨いのではないか、とわたしは思つてゐる。

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 擦り下ろした生姜と削り節、山ほどの刻んだ葱。

 それからひと滴しの醤油。

 まあ、居酒屋でよく目にするメニュではある。複雑な手順の料理ではないが、手順のややこしさと旨いかどうかは別の話。それに麦酒にも冷酒にもお燗酒にも適ふんだもの、寧ろ喜ばしく、周章てて食べるものでもないのもいい。

 ちやんとした店なら、厚揚げは註文を受けて作るから、少し時間が掛かる。だからポテト・サラド辺りと一緒に頼んで、待つのが好もしい。ポテト・サラドを挙げたのは、これなら待たされることは少いし、まづいのを出される心配も無からうからで、どうです、中々合理的な判断でせう。呑むのが三杯までなら、これで十分な場合もある。

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 流石にそれぢやあ足りないのではと首を傾げる若い讀者諸嬢諸氏もゐるだらうが、足らなければ外にもお好みを食べまた呑めばいいので、わたしだつて空腹や喉の渇き具合によつては、鶏の唐揚げやもつ煮を追加したり、麦酒でも焼ハイでも冷酒のお代りの註文に吝かではありませんよ。

 

 何故こんなことを書いたかと云へば、以前の画像に厚揚げとポテト・サラドが順になつてゐるのを見つけたからで、懐かしさを感じた、それ以上の切つ掛けはない。