閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

663 好きな唄の話~番外篇

 この稿では一回につき一曲、出來るだけ別のひとの別の唄を取り上げるのを原則にしてゐる。なので全体で完成してゐるライヴ・アルバム…たとへばディープ・パープルの『LIVE IN JAPAN』や佐野元春の『HEARTLAND』、甲斐バンドの『PARTY』…は中々あげにくい。こまる。

 

 困り方にはもうひとつあつて、好きな唄が多すぎるひとも原則を考へると、あげにくい。いやこちらは撰びにくいと云ふのがより正確で、わたしにとつてその代表なのが山下達郎である。

 

 大急ぎで念を押すのだが、わたしはぐうたらなポップス好きに過ぎないから、かれの足跡を時系列で知つてゐるわけではない。最初に入手したのは『POCKET MUSIC』であつた。収録されてゐる「風の回廊」が目当てで…先刻、發賣年を確めたら卅五年前だつたから驚いた。

 

 その後、どんな順番でかれのアルバムを買つたかは覚えてゐない。『On the Street Corner』だけは当時、廃盤だつたから、中古でLPを見つけて手に入れた。嬉しかつたなあ。他のアルバムを順不同に挙げてゆくと

 

Ride on Time

『Melodies』

『僕の中の少年』

『Artisan』

『Cozy』

 

が思ひ浮ぶ。この稿で取り上げる基本に則つて、個別の唄を挙げるなら

 

Ride on Time

「あまく危険な香り」

「メリー・ゴー・ラウンド」

「LOVELAND,ISLAND」

「マーマレイド・グッドバイ」

いつか晴れた日に

 

すつと出る分でもこれくらゐはあるし、カヴァを含めてよければこの数はもつと増える。更に厄介なのがライヴ・アルバムの『JOY』で、たとへば「メリー・ゴー・ラウンド」なぞはスタジオ版がいいのは上に挙げたとほりとして、『JOY』に収められたヴァージョンの恰好よさは格別でもある。なのでひと括りにするのは六づかしい。かといつてちがふ唄とも云ひにくい。仕方がないから、山下達郎といふ稀有の唄聲の持ち主については、別の稿を立てるしかないかと思つたが、手に負へるだらうかといふ疑念が湧く。何より僕の中の少年はそれをきつと我慢ならなく感じる筈で、あのひとはまつたく厄介と云ふ外にない。