閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

765 大坂の本棚に~コンパクト・ディスク

 世の中にコンパクト・ディスクがあつたことを知つてゐるひとは、ひよつとして古老の部類になるのだらうか。

 一体わたしは臆病なたちなので、新しい技術には中々手を出せない。それだものだから、デジタル式のオーディオ・プレイヤーに飛びつけないまま(いやその間にMDやDATもあつた)、昭和から平成を経て、令和の現在に到つてゐる。

 見てのとほり、左からキダタロータイムボカン、ディープ・パープル、グラン・ブルーサウンド・トラックビートルズイエロー・マジック・オーケストラ。自分で云ふのも何だけれど、取り留めもない。上の段には佐野元春鈴木結女浜田省吾山下洋輔やマンハッタン・ジャズ・クインテットもあつて、取り留め云々より、渾沌とかカオスとか、感じられるかも知れない。

 現代の若ものには想像が六づかしいかとも思ふが、わたしやわたしと同世代の人びとは、音樂の情報を入手するのにたいへんな手間を掛けてゐた。インターネットだのサブスクリプションだのは萌芽すら見られず、新譜は情報雑誌(さういふものがあつたのだ)か目にするか、FMで耳にするかくらゐで、後はレンタル・レコード屋で借りて試し聴くか、友人知人と貸し借りをするしかなかつた。

 不便と云へばまことにその通り。その分だけ、買つたら丹念に聴き、大事に保管もした。これも若ものには信じ難からうけれど、何しろ一枚が三千二百円も…レーベルによつてはもつと高額だつた…したんだもの。だから大坂の本棚には今も、コンパクト・ディスクを並べてある。