世の中にコンパクト・ディスクがあつたことを知つてゐるひとは、ひよつとして古老の部類になるのだらうか。
一体わたしは臆病なたちなので、新しい技術には中々手を出せない。それだものだから、デジタル式のオーディオ・プレイヤーに飛びつけないまま(いやその間にMDやDATもあつた)、昭和から平成を経て、令和の現在に到つてゐる。
見てのとほり、左からキダタロー、タイムボカン、ディープ・パープル、グラン・ブルーのサウンド・トラック、ビートルズにイエロー・マジック・オーケストラ。自分で云ふのも何だけれど、取り留めもない。上の段には佐野元春に鈴木結女に浜田省吾。山下洋輔やマンハッタン・ジャズ・クインテットもあつて、取り留め云々より、渾沌とかカオスとか、感じられるかも知れない。
現代の若ものには想像が六づかしいかとも思ふが、わたしやわたしと同世代の人びとは、音樂の情報を入手するのにたいへんな手間を掛けてゐた。インターネットだのサブスクリプションだのは萌芽すら見られず、新譜は情報雑誌(さういふものがあつたのだ)か目にするか、FMで耳にするかくらゐで、後はレンタル・レコード屋で借りて試し聴くか、友人知人と貸し借りをするしかなかつた。
不便と云へばまことにその通り。その分だけ、買つたら丹念に聴き、大事に保管もした。これも若ものには信じ難からうけれど、何しろ一枚が三千二百円も…レーベルによつてはもつと高額だつた…したんだもの。だから大坂の本棚には今も、コンパクト・ディスクを並べてある。