閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

778 機會

 画像は過日、呑み仲間の女性と共にした久しぶりの酒席で註文した、紅生姜の串焼き。以前に別の呑み屋で、紅生姜の串揚げを食べたが、東都で紅生姜を使った摘みは滅多に目にしない。頼んでみない手はないと思った。出たのがこれだったから、少々驚いた。品書きを改めたら、紅生姜の串焼きの後ろに小さく豚巻きとあって、成る程と納得した。

 喰うと生姜の酸みや辛みが、豚の脂と巧い具合に折りあって、中々宜しい。ウスター・ソースと青海苔の所為か、小麦と葱と卵を抜いたお好み焼のようでもある。同席の女性は、わたしと同じく旨いもの好きだから薦めると

 「たこ焼みたいね」

食べてから褒めた彼女は、直ぐに頭の中ではお好み焼だったのよと訂正した。その女性は東のひとだし、両者は實際、親戚と云っていいから、混乱も止む事を得まい。

 

 併し考えたら、生姜と脂は相性がいいことを(たとえばソース焼そばや牛丼)、わたしは知っていた筈である。なぜあの時は、妙に感心したのだろう。

 思っていなかった場所。

 思っていたのと違う仕立て。

 思ったより好もしい味。

 後になって、この三つが重なった結果と気がついた。もっと簡単に、意表を衝かれたと云ってもいい。實のところ、暫くは不思議だった。だからそういうことかと判った瞬間、祝盃をあげたくなったのに、それが平日の晝だったのは、まったく残念だった。

 

 機會は改めて作らねばならない。

 勿論あの串を頬張りながら。