閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

796 眞似出來ない豆腐

 画像は[梯子どんたく~澤乃井篇]でも書いた、奥多摩澤乃井園にある[豆らく]で出す、おぼろ豆腐御膳…の一部…といふより主役の部分。前に見たのと色みがちがふなあと思ふひとには、常用するAQUOS sense3のカメラ機能の所為だと云つておく。

 

(修整するのも面倒だなあと思つたのは、ここだけの話にしてもらひますよ)

 

 山葵と刻み海苔と三ツ葉に覆はれてゐるのが豆腐。

 その下にはごはんが隠されてゐる。

 周囲はベーコンとうす味に仕立てたあん。

 豆腐もごはんもあんも熱いのは勿論で、澤乃井のお酒に似合つたのは云ふまでもない。ベーコンをあしらつたのは好みが分かれさうだ。わたしは惡くないと思ふ。鶏肉でよかつた気もするけれど(小さく刻んだのを、これだけは濃く味つけたら、全体の味はひに変化が生れたらう)、わざわざベーコンを撰んだのは[豆らく]の工夫と考へたい。

 家では眞似出來ない。料理好き料理上手は知らず、わたしの手にはあまる。それにあの味には、多摩の山並みだの周りのざはざはした空気だの窓外から入つてくる風だの、そんなのが全部、含まれてゐるもので、それは[豆らく]に限つたことではない。有名店のあの味をご家庭でも、とかいふ惹句が詰り嘘なのは、この一点で證明出來る。

 それが細々した小鉢もついて、お酒を一本呑んで、二千円程度で済むのだから確かに廉い。廉いが惡ければ、値段で味はへるのが、十分以上に満足出來ると云ひませうか。尤もその廉を満喫したければ、往復の電車賃が殆ど同じくらゐ掛つてしまふ。残念ではあるが、それは旧國鐵に文句を附けるのが筋だし、まして間に一泊を挟むのはこちらの勝手である。