閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

797 曖昧な焼賣

 以前から飽きず書いてゐるのは知つてゐる。知つてゐてまた書きたくなつたので書く。いやその前に書きたくなつた切つ掛けの画像をご覧いただくのだが

焼賣である。近所の呑み屋で出してゐる。品書きには焼賣の前に円の中に"旨"の字を入れた記号が附いてゐてマルウマとでも訓めばいいのか知ら。四百円くらゐだつたと思ふ。上手に蒸し胡麻油の効かし具合が宜しい。醤油は要らず辛子は少し添へた方が好もしかつた。サッポロの赤ラベルにあわせたかお代りの抹茶ハイだつたか兎にも角にも摘みの味つけだつたのは間違ひない。手取川(後で呑んだのだ)にあはせても惡くなかつたにちがひない。

 それで聯想されたのがシウマイ弁当である。崎陽軒謹製のあれ。家で食べたことはない。横濱の球場でベイスターズの試合を見物しながら食べた記憶はある。愛らしい賣子さんから(当時)七百円くらゐだつた麦酒を買つたのは勿論の話。試合はさつぱり記憶に無いが弁当はうまかつた。

 思ふにシウマイ弁当はたとへば横濱球場で食べるのが本筋ではなからうか。コンビニエンス・ストアやマーケットのお弁当なら家で食べても仕事場で食べても不自然ではないのに家や仕事場にあるシウマイ弁当には探偵小説で現場に残された遺留品のやうな違和感がある。

 「妙だ…どうして仕事場に崎陽軒が」

わたしが探偵役ならきつとさう呟いて推理を始めるだらう。そろそろ何を云つてゐるか自分でも解らなくなつてきた。話を本題(まあ大した話ではない)に戻す。

 横濱球場の他にシウマイ弁当の似合ふ場所があるとしたら特別急行列車である。座席の狭い卓に罐麦酒と並べればちよつとした旅行の気分になるのは請け合ふ。王将に餃子弁当があるのか知らないが多分シウマイ弁当には及ぶまい。王将の餃子に似合ふのは油つぽいカウンタと壜麦酒だからそこは役割のちがひと云つておく。

 要は旅行に出たい…いやもつと正確に特別急行列車に乗りたいと思つた。窓外の町並みや山肌をぼんやり眺めながら罐麦酒を呑んでシウマイを摘む。気が附いたらどこかに着到してゐるだらう。そのどこかはどこでもよく、さういふ曖昧にシウマイ弁当は似つかはしい。