閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

849 丸太花道、西へ~撰択

 西へ上る。

 西へ上つたら、旧い友人…この稿ではエヌと呼ぶが、星新一のショート・ショートに登場するエヌ氏とは別人なので、為念…と会ふ。思ひ返すと四十年に及ぶつきあひだから、旧いと称して、まちがひとは云はれまい。

 

 年末のどこか。

 晝前から落ち合つて、半日余りふらふら歩いて、夕方早めの時間から呑む。この何年かは[てぃだ]といふ奄美とドイツが混つた妙な呑み屋を気に入つてゐる。妙なと云ふのは組合せを指してゐる。

 「今年は、どないするンね」

 「安定しとるやろね、[てぃだ]が」

と意見が纏まるのは要するに呑み喰ひが美味いからである。[てぃだ]でなければ[ケラーヤマト]があつて、こつちは麦酒専門。料理が旨いのは当然だが、麦酒計り呑み續けるのは六つかしいから、バーに移ることになる。

 

 そのエヌに西上の聯絡をしたら、互ひにシニアの門を潜つてゐるのだから、気をつけて帰つて來玉へと返事があつた。五木寛之でもあるまいに。

 

 夕方早めの時間まで、ふらふら何をするのかと云へば、莫迦話をしつつ時々冩眞を撮る。序でにカメラ屋を冷かしもする。エヌはおれにカメラ趣味を教へた張本人である。冷かしはしても、買ふことはない。手持ちのカメラとレンズで大体のところは満足だからで

 「慾しいモンが無い、ちふのも、アレなンやが」

さうは云ひあつても、結局は

 「無理くり買オても、直き飽きるンは確實やしなあ」

といふ結論に達する。それにエヌもおれも爺、訂正、シニアの門を潜つてゐる。大きく重いカメラやレンズには視線が向かず、双方好みのスタイリングがあつて、その網の目を通り抜ける製品は中々見当らないのも事實である。

 

 兎も角も、カメラは持ち帰る。

 オリンパスE-PM2パナソニックの12-32ミリを附けてゆかうと思つてゐる。小振りでかるく、ズームが便利でもある。他に持ち帰るのも充電器とケーブルだけで済む。GRデジタルⅡならもつと小さくてかるいけれど、こつちは玩具の要素が強く、一緒に持ち帰りたいアクセサリが嵩張つてしまふからね。但しこの判断には、"今のところは"と注意書きをつけておく必要がある。

 兎も角もと云ひながら、撰択肢を残してあるのは、E-PM2パナソニックの12-32ミリ、或はGRデジタルⅡが最良…ではなくても好もしいかどうか、判断が出來かねてゐる所為である。極端なことを云ふなら、西上してからカメラを入手する方法だつて考へられる。ただこの案が成り立つのは、GRⅢを買ふ場合に限られるし、實行したらエヌからは

 「阿房な眞似を、するモンやな」

さう揶揄はれるにちがひない。