閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1081 中壜

 晴れた夕方、風を感じながら、馴れた呑み屋に入つて呑む壜麦酒は、まつたくのところうまい。ひよつとして、眞夏の罐麦酒よりうまいんではなからうかとも思はれる。尤もすつかり、アルコールに弱くなつた私である。従つて、大壜はこまる。併し小壜では些か物足りない。ゆゑに中壜が私にとつて丁度よろしいことになる。ここまでは論理的でせう。

 ところで近年…体感的にはこの四年から五年、麦酒醸造各社が、ちよいと変り種を出すことが多くなつてゐる。ベルギーを範にしたホワイトビールを例に挙げれば、何となく判つてもらへると思ふ。さう云へば過日、呑み屋で偶さか隣あつた佛國人は、母國にはうまい麦酒が無いけれど、ベルギーがあるから安心なのだと云つてゐた。確かにポワロの國は麦酒大國である。尤もあの名探偵は、佛國かぶれだつたから、麦酒を樂んだかどうか判らない。例によつて話が逸れた。

 別の過日、別の呑み屋で、画像の麦酒を見掛けたから註文した。グレープフルーツでどうかうしたとかで、以前オレンジピールをどうかうしたのを呑んだなと思ひだした。

 惡くない。

 ほのあまい。葡萄酒風の香りを感じたが、私の舌である、信憑性は如何だらう。ヱビスが基だから、まづくない。当然である。物足りなく感じるひともゐるだらうが、ヱビスの濃い苦みを、グレープフルーツのどうかうが巧く抑へてゐる。本來の味はひを得手としない向きに、具合は宜しからう。

 オレンジピールのどうかうの方が、好みだつたかなと思ひだしながら、一本呑み干した。なだらかに次の一ぱいを註文しつつ、なだらかにお代りへと移れる中壜は、丁度いい分量なのだなと思つた。