閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1082 三百円(消費税別)

 腕時計に興味がない。世の中には高額な、高級な、高機能な腕時計があるのは、知つてゐる。知つてはゐるけれど、持つてゐるひとを羨ましく思つたことがなければ、慾しいと感じたこともない。

 「正確に動いて、時刻が判れば、いいぢやあないか」

といふのが、腕時計に対する考へで、物慾にふらふらする私なのに、この考へはぶれてゐない。懐中時計は稀に気になりはするが、あちらは腕時計でないから、別扱ひでよからう。

 正確に動き、時刻の判り易い腕時計がよければ、デジタル式が一ばんに思へる。スマートフォンと聯動してどうかうするスマートウォッチだつたか、さういふややこしいのは要らない。GPSやら何やらも要らない。防水防滴はあるに越したことはないが、なくたつて、使ふのに支障はあるまい。

 さう思つてゐたところに、百円均一(但し消費税別)のお店で、画像の腕時計が目に入つた。値段を見ると、流石に百円(消費税別)の筈はなく、三百円(消費税別)だつた。なーんだと思つてから、いや待てデジタル腕時計が、三百円(消費税別)とは、をかしくないかと考へ直した。

 「デジタル腕時計の値段が平均的に幾らかは兎も角、三百円(消費税別)だつたら、その平均を大きく下回るのは間違ひあるまい」

 「取扱説明書を見るに、電池交換が出來さうな記載もあつたが、電池切れで棄てても惜しくない」

これなら失くさうが壊さうが気を病まずに済む、と考へを改め…三百円(消費税別)にて贖つて帰つた。