閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1097 揚げ馬鈴薯にソース

 揚げ馬鈴薯…フライドポテト、乃至ポテトフライ、或はフレンチフライを私は好む。呑みに出て、併し空腹がそれほどでもない時、ちやかちやか摘め、ぼちぼち摘めもするから、實に具合がいい。

 ここからはフライドポテトで統一しますよ。

 麦酒。

 酎ハイ。

 ホッピーにも似合ふ。お酒はどうか知ら。基本の味つけが塩だから、適はなくはなからう。金山寺をつけるのはありかも知れない。葡萄酒やヰスキィで試したことはないが、チーズが関はれば、準レギュラーは間違ひなく張れる。

 さてそのフライドポテトは、馬鈴薯の切り方で、見た目も味も随分と変る。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にも、それぞれお好みはあらうが、私はシンプルな棒状を一ばん喜ぶ。長く短く、ぱりんと、しんなり、様々変化があつて嬉しい。

 揚げたては塩のまま。

 冷めてきたら、ケチャップ。

 醤油を使ふことも使ふ。

 何で目にしたか、フライドポテトの元祖の地では、マヨネィーズを添へるといふ。雑に俯瞰すれば、この料理の生れはベルギー(あのポワロの出身國である)で、十七世紀半ば頃。マヨネィーズはそのおよそ一世紀後に誕生してゐる。詰りマオンのソースがのしてくるまで、フライドポテトには別の調味料をあしらつたか、揚げて何もつけないか、精々塩を振つて貪つたかといふことになる。十七世紀から十八世紀にかけて、ベルギー人の食卓に何があつたかは知らないけれど、ベルジアン・ソースが無かつたとは思へない。ひとが棲む土地にはきつとうまいものがあると、檀一雄が教へてくれたぢやあないか。どこか醉狂な呑み屋で、マヨネィーズ以前のソースを用ゐたフライドポテトを出してはゐまいか。ベルギー・ビアとやつつけてみたいものだ。