リコーのGRⅢを、常用してゐると、何度も書いた。
主に物慾の面から、色々と触れた。
小さくてかるくて、よく冩る…といふことを考へ、考へ續けた結果が、GRⅢであつた。
持ち出すのに、苦痛でなければ、不便でもないサイズとスタイリング。
普段使ひだつたら十分以上、且つシビアな撮影でも対応出來るレンズ。
この條件を満たすのはたいへんなことで、その背後には、銀塩のR1以來の伝統がある。わかい讀者諸嬢諸氏の為に云ふと、發賣は平成六年。卅ミリのリコー・レンズが附いてゐた。グリップ部にフヰルムのカートリッジを格納し、そこ以外をうすく仕上げた機種。曖昧な記憶で恐縮だが、世界で一ばん薄いライカ判を標榜してゐたと思ふ。
そのR1のリコー・レンズを見直し、廿八ミリにして、GRレンズとして、併しR1のフォルムを引き継いだのが、GR1だつた。勿論、銀塩。何だか分らない(きつとレンズの見直しだらう)けれど、同s、同vと續いた。
確かこの頃、京セラ・コンタックス銘のT2や、コニカのへキサー、ニコンの28Ti/35Tiと"高級コンパクト"が流行つてゐて(その掉尾を飾つたのが、ミノルタのTC-1)、そこまで"高級"ではないが、富士フイルムのティアラがあつて、思ひかへすと、T2の先代であるT、28Ti、へキサーにティアラ、それからGR1vも買つた。あの頃の私は御大尽だつたなあ。
過去のお財布事情はさて措き。GRⅢに到る系譜を俯瞰すると、(遠い)ご先祖に(所謂)普及型を持つてゐる点が、他の機種と大きくちがふ。リコーの名誉の為に云ふなら、これは寧ろ誇るに足る來歴であつて、富士フイルムはティアラを、そこまで磨け(もしかして"磨か")ず、勿論デジタル化もしなかつた。コニカミノルタのカメラ部門を吸収したソニーも、へキサーやTC-1と、そのレンズに対して冷淡だつた。
さう考へた時、銀塩から始つて、GRデジタル四代と、GR及びGRⅡから繋がつた、我が手元のGRⅢには、特異な歴史の一面が色濃くあると云つて、異論反論は出にくからう。
ではその特異な歴史が續いたのは、何故か知らと思ふのは当然の疑念で、粗雑に云ふなら、初代R1の方向性…きらひな言葉を用ゐるなら、コンセプト…が正しかつたからとなる。だつたらそのコンセプトとやらは、何だつたのだらうと疑念が續くのも、矢張り当然で、おそらく
・胸ポケットに入るくらゐの小ささ。
・胸ポケットに入れて、不快にならない程度のかるさ。
が最初にあつた。そこから具体的な形状が導かれ
・その形状に収まる広角寄りのレンズ。
が求められたと思はれる。本体やレンズの性能は、"その條件の中"で、作り上げてゆかうと考へた、のではないか。
リコーは後継機のR1sを経て、GR1に到るまで、その路線を崩さなかつた。上に挙げた方向が受け入れられたからで、ここで慾張つてズームレンズを附けるか、と進まなかつたのはえらい。さういふ我慢が、"GRのシルエット"を、完成に到らせ、GRデジタル、GRへと繋げたんである。残る不安は、さうやつて完成さしたGRのスタイリングが今、GRじしんを締めつけてゐるだらう点。GRにⅣの気配が感じられず、Ⅲとそのバリエイションで継續してゐるのは、たとへばEVFを内藏させたり、液晶モニタを可動式にしたら、利便性は高まつても、それはGRではないと云はれるのは間違ひもの。正直なところ私も、GRⅣを(急いで)出すより、GRⅢ monochromeを用意してほしいと考へる口である。かういふ聯中を黙らす必要があるのだから、リコーの開發陣…ことにスタイリングを担当するひとは、たいへんだなあと思はれてならない。