閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1140 曖昧なまま

 ここ暫くお酒、日本酒を呑んでゐない。

 厭になつたとか、飽きたとかではない。

 ただ何となく、距離が出來てしまつた。

 このままなら、禁酒まで進めるか知ら。

 

 と思つたが、麦酒や焼酎ハイは欠かさないから、四行目は撤回さしてもらひませう。

 併しそろそろ、ひやおろしが出廻り、肌寒くなつてきて、きつとお酒が恋しくなる。

 

 さて何を肴にしませうかね。

 かう書いた途端、烏賊、續いて鯖が浮んだ。自分で云ふのも何だが、庶民的といふか、安直な嗜好である。とはいへ、庶民的で安直な肴が、まづいと限りはしますまい。

 烏賊はお刺身と焙りで。

 鯖は〆たのと竜田揚げ。

 上の四品があれば、二合のお酒を平らげるのに、十分ぢやあないかと思ふ。ここに塩焼きの鯖だの、下足の天麩羅だのを加へたら、寧ろ贅沢な酒席となるにちがひない。

 

 いや烏賊と鯖にこだはる必要はなく、お豆腐や漬け鮪やら玉葱の掻き揚げ、鯵のたたきに焼きほつけ、焼き厚揚げに蛸と若布の酢のものだつて、お酒に似合ふのは当然である。うーむ、我ながら、若さに欠ける撰択だなあ。

 一応ここで、鶏の唐揚げやミンチカツやハンバーグは、そもそもお酒に適はないもの、と理窟を捏ねられはする。但し唐揚げやカツやハンバーグに、大根おろしを添へれば、捏ねた理窟が更に裏返されるから、具合が惡い。

 それにささやかな経験から、葡萄酒に似合ふ食べものの多くが、お酒にも似合ふのは判つてゐる。生ハム然り、各種のチーズ然り。となれば、要するにこちらの舌と胃袋が、主な要因なのだと推測して、間違ひはなからう。

 

 きつとお酒が恋しくなる季節が近寄つてきて、呑むなら肴を欠かすわけにはゆかないなあと思つてゐたら、あれこれと頭に浮んだ。なので曖昧なままに書きつけておく。