"熱血キッド"つて、たれだと首を傾げるわかい讀者諸嬢諸氏に説明すると、大昔…平成三年の…熱血飲料といふ飲みものがあつたのだ。サントリーが賣つてゐた。その宣伝の為に設定されたキャラクタで、演じたのは唐沢寿明。序でに云へば、ヒロインは中村通代。惡役には贅沢なことに、麿赤兒を配してゐた。
奥田古佐典(オクタ・コサノリと訓む。熱血飲料に含まれたオクタコサノールに因む)が、熱血飲料を飲んで変身するヒーローが熱血キッドで、『熱血キッドの唄』はその"テーマ曲"なんである。勿論、熱血キッドといふヒーローものがあつたわけではなく、宣伝上の洒落と云つていい。
ところが、この唄を任された東京バナナボーイズは、その冗談を大眞面目に作り上げた。月光仮面で本格的に幕を開けた、テレ・ビジョンのヒーローに求められる要素…強く、熱く、優しく、孤獨…を残らず入れ、歌詞もメロディも覚え易い。詰り何かの拍子に口ずさんでしまふ。實際私は、途中の科白を除くと、今もほぼ唄へる。これは大したことで、"ふと唄へる"一点に限るなら、私の世代の仮面ライダーやウルトラマン、マジンガーZに匹敵すると云へなくもない。
次の『熱血 RIDE ON!』は、(残念なことに)(ヒーローの唄としては)ちよと、落ちたけれど…併し同じサントリーの鉄骨飲料に提供した二曲は、さうでもない。"鉄骨娘"を演じた鷲尾いさ子の功績だらうか…その落差で、この唄に注ぎ込んだ熱量の大きさが、理解出來る。