閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1196 スマートフォンの代りに

 以前から何度も(ひつこく)繰返してゐるとほり、私が常用するカメラは、リコーのGRⅢである。28ミリ相当の画角は實に使ひやすい。それに(クロップは別として)焦点距離を迷はずに済むのも有難い。

 勿論、単焦点を使ふには、ある程度、叉はそれなりの馴れが求められる。止む事を得ないといふか、当然といふか。冩眞を眞面目に掴む積りなら、何かしらの縛りを課す方が望ましくあるけれど。

 

 さうではない使ひ方も当然、ある。旅行先で撮る記念冩眞を思へばよく、甲府で摘んだ美味い鶏もつ煮と、鶴丸から垣間見た美しい富士の御山の姿を、GRⅢで撮らうとすると、前者は兎も角、後者では多少の無理が出なくもない。

 さう考へると、ズームレンズは矢つ張り、便利なのだなあと思ふ。怠け者と笑はれるのは、その通りだから仕方がないとして、記念や記録冩眞を撮るなら、画角を操作出來る方が好もしいのではありますまいか。

 

 そのズームレンズは色々な分類が出來る。

 カヴァする焦点距離

 ズームの倍率。

 レンズの明るさ。

 価格。

 ズームレンズ群には、さういつた條件が混つてゐて、我われはその群れから、自分に都合のいい一本を撰ぶ。従つて

 「これが万人向けのベスト・ズームレンズだ」

などといふものは成り立たない。草花や虫を撮るのと、烈しいスポーツを撮るのと、魚を撮るのでは、求められる要件がまつたく異なるでせう。

 

 なのでここからは、私にとつて都合のいいズームレンズに就ての話になる。参考にならなくたつて、知つたことではないのは、予め云つておきますよ。

 GRⅢが主役。これは大前提である。叉この稿の時点では、GF3で使ふことを想定してゐる。ゆゑにズームレンズは、これらの小ささ軽さをスポイルしない、コンパクトなサイズであつてもらひたい。

 経験的に云つて、狭角…望遠側はそこまで要らない。まあ100ミリまであれば、十分である。代りに広角側は広いほど有難い。冩つてゐれば後は、どうにかなる。28-200(300)ミリといつた高倍率のズームは、一見万能だが、附けるボディを撰ぶ。GF3には似合はない。

 一方で呑み喰ひを撮るから、寄れる性能は慾しい。マクロレンズ並み…などと求めはしないにしても、すべての焦点距離で、卅センチメートルより近づけるくらゐがいい。

 明るさは正直、どうだつて宜しい。大口径を奢つて描冩がよくなるのは兎も角(とは云へ私は、"ぼけ"に重きを置かないのだが)、持ち出すのに躊躇を覚える大きさ重さになつてしまふ結果を、私は喜ばない。

 要するに中小口径、24ミリより広角から始まる、倍率では精々四倍未満が丁度よく、適度に廉価ならなほ好もしいといふ捻りも何もない撰択になり、併しこの手のズームレンズを見掛ける機會は、随分と少くなつた。商ひにならんだらうしなあ…との想像は容易である。第一これくらゐの焦点域なら、スマートフォンのカメラ機能でほぼ、カヴァ出來る…ここまで考へて判るのは、ズームレンズが

 

 「スマートフォンでは撮れない画像」

 

の方向を目指し、ひよつとすると進みすぎてゐるのではないか、といふことで、メーカーの立場にゐたら、さうせざるを得ないのかと思ふけれど、こつちはユーザーである。私のやうな男からすると寧ろ

 

 「スマートフォンの代りに使へる」

 

一本が慾しいんですがねえ、と云ひたくなる。そこで今GF3に附けてゐるパナソニック12-32ミリを振り返れば、オリンパスのMズイコー14-42ミリと共に、その手のレンズ群の掉尾を飾つたのかと思へる。24ミリ始りは好ましく、明るくはないが、沈胴してゐる時は十分にコンパクト、そこそこに寄れるのも宜しい。望遠側が64ミリに留つてゐるのは惜しまれるけれど、望遠側を80~100ミリくらゐまで延ばすと、筐体が巨きくなつてしまふか。裏を返してそこを現代の技術で何とかすれば、スマートフォンを横に置ける、便利なレンズが誕生しさうな気もする。さういふ一本をGF3に附け、甲府辺りをうろつくのは樂しさうである。落日のマイクロフォーサーズに求めるのは、無理があるか知ら。