MOONRIDERSを聴いたのはごく僅かである。なのでこの特異なバンドに就て云々はしない。そもそも出來ない。
『Don't Trust Over Thirty』といふ、図々しいタイトル…メンバーの年齢を考へれば、"おれたちを信じるなよ"と云つてゐるのに等しい…のアルバムに収められたこの唄は、どうも私のどこかを押したらしい。それも強く叩いたのではなく、つぼに触れたやうな感じ。その触れ具合が何とも巧妙で、いやこれは、文字通りの私的な体感だから、理解されないのが寧ろ、当り前だと思ふ。
皮肉。
諧謔。
共感。
自虐。
さういふ要素が、(私にとつては)些か複雑に示され、その複雑さが私を喜ばせ…詰りこの時、巧妙に(またしても!)つぼを押されたのだと思はれる。
歌詞全体を見渡しても、メッセージが隠されてゐるのか、諷刺の意図や気分があるのか。ありさうな気はしなくもないし、そんなものは欠片もなささうに感じられもする。要するにさつぱり解らず、もしかして、MOONRIDERSのたれに尋ねても解らないかも知れない。深讀みが得意なひとなら、逐語解釈も施せるだらうが、それが出來た(正しいか否かは別である)として、有意だとは思ひにくい。
きつとこの唄は漠然と聴きながら、"ああこれは、おれのことなんだな"と思ふのが、一ばん似合ふのだらう。さう考へれば、抽象的にも暗示的にも響く受難が、かへつて強い満足と實感をもつて、耳の奥底に残るといふものだ。
殆ど唯一の不満と云へば、タイトルの表記を、マニ"ヤ"の受難としてもらひたかつたくらゐである。