閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1208 「3」が來る

 暫く前から、デジタルカメラに就ての噂を纏めたWebサイトで、散らちらと話題になつてゐた(ああいふ噂はどこで仕入れるんだらう。メーカーが意図的に、"ほんのちよつと"洩らすのか知ら)から、正式に發表された時も、驚くより先に

 「ああ矢張り出たのか」

と思つた。私が云ふのは、オリンパス…ではなく、OMデジタルソリューションズ(無駄に長いから、ここからはOMDSと略しますよ)のOM-3で、事實上、OMDS最初の機種ではないだらうか。

 この稿を書いてゐる今、OM-3は發賣前(彌生朔日の予定)である。併しOMDSやその他のWebサイトには、画像が出されてゐるから、それを見た印象を記しておかうと思ふ。

 正面からの画像で、先づ違和感があつた。

 背面の画像で、モニターの位置やボタン類の配置を見て、違和感の理由が解つた。横長なんである。リコーがGRデジタルから、デジタル抜きのGRになつた時(こつちは撮像素子の大型化もあつたが)、従來のスタイリングを保たうとしながらも横長になつて、がつかりしたのを思ひだした。

 いやね、横長と違和感と惡いを直線で結ぶのは、をかしいんです、確かにね。併しOM-3は、銀塩OMのスタイリングを引つ張つてゐて、さうなると何ミリメートルかのちがひが、何センチメートルくらゐの差にも感じられる。どうしてかうなつたのか、Webサイトの記事を讀むと、電池の形状だか大きさだかで、さうせざるを得なかつたらしい。

 (すりやあ、ないでせうに)

さう聲に出したくなつた。社内でモックアップだかの検討をした際、これはいかんですよと、たれも云はなかつたのか、聲は出ても、仕方がないよで押しきられたのか。どちらにしても大きな失敗だよ、これは。

 かう書く私は、銀塩OM、ことにOM-1のスタイリングを素晴しいと思つてゐる。全体としてはコンパクトに、但し操作に必要な部品は大振りに、手指の掛かる位置へと配して、設計を担つた米谷義久によつて、丹念に練り込まれたのがよく解る。あのひとは冩眞小僧だつたといふからなあ。

 そのスタイリングを受け継がうと、OMDSは考へたのだらう。その意気やよし…ではあるけれど、それがマイタニ・デザインの上ツ面を撫でただけで終つたのは、感心しない。どうにも感心出來ない。意地惡く

 「ニコンがZfcで示した"ヘリテージ・デザイン(どういふ意味なんだらうか)"が、受けたみたいだから、ここは我が社でも、ひとつ出しませうや」

そんな程度の發想で企劃が始つたのではないか、と云ふひとが出てくるんぢやあないかと、心配にもなる。

 オリジナルのOM-1が優れた姿を得たのは、必要な機能の操作部位を、必要な形で、必要な場所に置いたから成り立つた。今回のOM-3は、造らうとする前に、さういふ検討があつたか知ら。きらひな単語を使ふなら、コンセプトを明確に絞り込んだのかといふ疑念。ここを詰めてゐたら、異なる型番を割り振つた、併しもつと理に叶つた姿になつてゐたのではないかと思ふ。

 もうひとつ、銀塩OMをとことん眞似する詰め方も、確かにあつた。であれば先づ、その形状を崩さない方向に進んでゐたらう。OMの名前を冠するのが前提なら、さう考へるのが自然ではないか。序でながら、軍艦部に置いた電源レバーの形も、あんなに無様には出來なかつた筈である。

 「併し用意した機能を載せるには、ああでなくちやあ、ならなかつたんだ」

とOMDSは反論するかも知れないが、そんならOMの形を保つことを優先して、機能とそれに伴ふ部品を整理するのが、この機種に限れば本來だつた。勿体無い。

 

 とまあ併しこれは、画像を見ただけの印象に過ぎない。實物を目にして手に取れば、上に書いたことを、残らず引つ繰り返す可能性も残つてゐる。何しろデジタル抜きのGRと同Ⅱで、残らずではないにせよ、評価の気分が引つ繰り返つた経験があるからね。願はくば間もなく現れるOM-3も、さうであつてもらひたい。