『NATIONAL GEOGRAPHIC』のWeb版に、かういふ記事があつた。
「理想のゆで卵」を科学者が発表、作ってみたらすごかった
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/25/020700072/?ST=m_news
原文はこちら。
Periodic cooking of eggs
https://www.nature.com/articles/s44172-024-00334-w
『NATIONAL GEOGRAPHIC』から抜粋すると、手順は以下のとほり(表記の一部を、閑文字流儀にしてあります)
<用意するのは沸騰したお湯と、約卅度に保つたぬるま湯。卵を沸騰したお湯で二分間ゆでたら、二分間ぬるま湯につけ、再度沸騰したお湯の中に戻す。これを計八回、卅二分間続ける。>
面倒なのは、卵白と卵黄の固まりだす温度がちがふ(前者は約八十五度、後者は約六十五度)からで、両者の均衡を適切に保つ為なのだといふ。成る程ねえ。
云つておくと、研究者チーム(イタリーのフェデリコ二世ナポリ大學)は、養鶏業者でも、玉子料理のリストランテを経営してゐるわけでもない。上の記事を参照すると、"様々な條件下での物質構造研究"が専門。研究の主な対象はプラスチックだが、それをうで玉子に応用したさうだ。イグ・ノーベル賞的な發想に思へなくもない。
さてここで、論文の最終執筆者となつたエルネスト・ディマイオは、"理想のゆで卵"のイメージを持つてゐたかといふことが気になつてくる。
白身と黄身の固まり具合。
歯応へや舌触り。
うで玉子はそれだけで食べるのか。
塩やマヨネィーズをつけるのか。
サラドやサンドウィッチに用ゐるのか。
或は朝晝晩のいつに食べるのか。
"理想のゆで卵"の在り方は本來、さういふ要素の総体で成り立つでせう。野暮を承知で云ふと、温度のちがふ二つのお鍋で、卅二分間を掛けて作るうで玉子は、ディマイオ博士好みのうで玉子と云へはしないか知ら。改めて記事を讀むと、かう續いてゐる。
<それでも、ゆで卵はおいしかった。
黄金色の黄身は柔らかく、だからといってドロッとはしておらず、しっかりと黄身の味がした。固めのゆで卵が好きという人にとっては少々期待外れかもしれないが、私(筆者のKieran Mulvaney氏)の好みを絶妙にとらえていた(固めが好きな人はぬるま湯の温度を上げるといいと、論文には書いてある)。>
うーむ、中々微妙なもの云ひだなあ。
この文面から察するに、うであげて、そのまま味はつたらしい。叉このフェデリコ二世風うで玉子は、全体にやはらなかな仕上りらしく…詰り私好みではなささうに思はれる。批評するのは勿論、食べてからになるけれど、"理想のゆで卵"といふ刺戟的な見出しのお蔭で、うで玉子に就てあれこれ考へる時間を持てたのは、有意義だつた。ディマイオ博士とそのチームに、敬意を表します。
最後に序でだから、私のうで方を書いておきませう。鍋に玉子を入れ(私の場合は三個)、水を玉子を覆ふより多いくらゐの程度に張る。塩は加へず、火は最初から最後まで弱いまま。沸騰する前に火を止め、蓋をして、指を入れて平気な程度までさめるのを待つ。お鍋から取り出すタイミングで、食べた感じが異なつてくるから、暇を持て余した午后にでも、お試しください。