カメラの事業から撤退して久しいが、京セラにコンタックスG1といふカメラがあつた。
レンズ交換が出來る、自動焦点の、(自称)距離計聯動式。
当時の現行機で、距離計聯動式なのは、ライカのM6しかなかつたから、数寄ものの間で、えらい騒ぎになつた。
45ミリ・プラナー。
90ミリ・ゾナー。
隠し玉に、16ミリ・ホロゴンまで出してきて、気合ひが入つてゐるなあと思つた。
ホロゴンは別に、ボディとレンズ二本で、卅万円くらゐではなかつたか。いい値段だつた筈だが、京セラのフラグシップだつたRTSⅢは、ボディだけで卅五万円と記憶してゐる。さう考へたら、コンタックス・ブランドとしては、バーゲン価格だつたかも知れない。
賣れたと思ふ。私の友人もプラナーと一緒に手に入れてゐた。かれはコンタックスT2(所謂"高級コンパクト"の先駆けのやうな機種)も持つてゐて、その系統…レンズ交換が可能になつた發展型と位置附けたらしい。
(ははあ、さういふ見方もあるのか)
と、不思議を感じたのを覚えてゐる。
私は買はなかつた。そこまでお金を遣へる余裕がなかつたからである。慾しかつたか、どうか。興味があつたのは確かだが、シャンパンいろと黑の組合せが、不釣合ひに感じた記憶はある。T2も似た色合ひだつたから、京セラは色で共通性といふか、聯續性を示す積りだつたのかも知れない。
製造が終り何年か経つてから、プラナー附きの中古を入手した。この間、G2が出て、新しいレンズが出て、新しいレンズにあはして、G1もROMの変更(ファインダ動作の都合だつたらしい)を施されたけれど、私は廉な旧型を撰んだ。あれこれ買ひ揃へる積りではなかつたらしい。
フヰルムを入れ、ファインダを覗き、見辛いのに驚いた。をかしいと思つて持ち方構へ方を試すと、目の位置次第で見易くなると判つた。構へた後、カメラが求める位置に目を動かす必要がある、と云つていい。G2がどうだつたか、試したことがないから判らない。
(何と不便なG1だらう)
と思つたが、構へるのと、目の位置をあはせるのが、ひとつの動作で済むひともゐた筈で、さういふひとには、實に使ひ易く感じられたらうな。併し發賣当時、数寄ものを熱狂させたほどの出來とは感じられなかつたのも叉、本心である。
それでよく出來たカメラは、年月を経ても、よく出來てゐるなあと思はせる部分がある、と気がついた。因みに云ふ。G1が發賣されたのは平成六年。前年にキヤノンがEOS kissを出してゐて、この系列こそ、キヤノンの最高傑作ではないかと、私は半ば本気で思つてゐるのだが、そつちは措かう。併しこのkissは、令和の今の目で見ても
そこそこの値段で
ほどほどに冩つて
上位機種に乗り換へても、不便を感じさせない操作系といふ目的が明快に解つて、感心させられる。翻つてG1に、さういふ明快さがあつたかと云ふと、甚だ怪しい。G2で大幅にスタイリングを変へたでせう。それは
「かういふカメラを造つて…造り續けてやらう」
とする足元が、あやふやなまま、開發と發賣に到つた間接的な證拠と云へはしまいか。目のつけ処は決して惡くなかつたから、京セラは勿体無いことをしたと思ふ。一方これを、換骨奪胎し、序でにkissを混ぜれば、飽和状態に陥つたカメラ群の中で、獨特の位置を占めさうにも思はれる。