閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1226 メカメカなSAMURAI

 京セラが嘗て造っていたカメラと云えば、コンタックス銘が浮ぶのは当然として、あの會社はKYOCERA銘でも幾つかの妙な機種を出していた。オートフォーカスの一眼レフ…同世代の他社製品に較べれば見劣りはしたが、アダプタ経由でツァイス銘レンズを使えた記憶がある…や、コシナからOEMを受けたと思しきマニュアルフォーカスの一眼レフ、或はTと別系列のコンパクト機。これらはコンタックス/ツァイスの印象が余りに強烈だから、忘れられがちだけれど、今も時折、頭をよぎる機種があって、それがSAMURAIである。

 

 オートフォーカス

 オートエクスポージャ。

 フラッシュ内藏。

 ズーメレンズ搭載。

 巻き上げと巻き戻しも自動。

 ここまではありきたりのコンパクトカメラだが、京セラは何を考えたのか、この機種を

 ハーフサイズ。

 フヰルムは縦送り(従って横位置で撮れる)

 という仕様で出した。然も名前がSAMURAIであつて、もう一度云う。京セラは何を考えていたのだろう。

 

 「メカメカに新しい」

キャッチフレイズと共に登場したのは、日本の"三大ゴウ"のひとりである郷ひろみ…残るふたりは加藤剛永井豪…で、何やら新機軸が出たのは判るが、"メカメカ"が何なのか、叉どこがどう新しいのか、さっぱり伝わらない。雰囲気だよ、雰囲気と云われたら、それまでになるとしたって、矢つ張り釈然としない。

 ハーフサイズで縦送りの條件が、両の掌で包み込むように持つ縦長という、獨特の形状を引っ張り出したのは事實である。持った時に意外なほど安定して、側面にあるレリーズを押しても、ぶれる心配は少くて済む。併しそれが"メカメカな新しさ"なのかと云えば、単に要素から導かれた結果が、こういう構造やスタイリングに繋がっただけで、獨創的と呼ぶのは憚られる。

 そもそもがどんな層を狙った機種だったのだろう。オリンパスのPENから始まったハーフサイズの大流行は、遥か昔に終っていたから、改めて造る理由にはならない。ただフヰルムの性能は、PENの時代からぐっと向上してもいた。一時間プリントのサービスサイズくらいなら、特段に不満の出ない仕上げになったのは間違いない。京セラの開発陣はその辺りに目をつけたのか知ら。

 

 こちらの疑念はさて措き、SAMURAIはそれなりに賣れたらしい。初代以降、基本的なスタイリングはそのまま、幾つかの後継機を出したのがその證拠で、かくいう私も、最末期に出たZ2を贖った。ややこしい理由があったのではない。角が取れた石鹸のような丸っこさが気に入ったのがひとつ。もうひとつは、卅六枚撮りのフヰルムを詰めれば、倍の枚数が撮れて、当時お附きあいをしていた女性とのデートに具合がいいと考えたからで、思いだすと少々気耻ずかしい。

 そのSAMURAI Z2はいつの間にか手元から消えた。暫く経つとSAMURAIのシリーズ自体、姿を消した。京セラがデジタルカメラに手を出して間もない頃、このスタイリングを再起用したが、受け入れられないまま、直ぐ無くなった。もう既に"メカメカ"でも新しくもなくなったのだろう。そうこうする内、京セラ自体がカメラから撤退した。SAMURAIのことは、すっかり忘れてしまった。

 

 忘れたカメラを今さら思いだす切っ掛けになったのは、ペンタックスが出した17の所為である。令和六年に出たこの機種は銀塩、それもハーフサイズを採用した。フヰルム式カメラが、實用の機械ではなくなり、使うには相応の時間と対価が求められる令和、ハーフサイズは(特に費用の面で)意味がある。PENが現役の時代

 「お正月に装填したフヰルムで、年末の冩眞を撮る」

と揶揄されたフォーマットが、逆転して値うちになっているのだから、世界は判らない。

 そこでSAMURAIの出番である…と云いたいところだが、残念ながら話はそう簡単ではない。現行機の頃ですら、オートフォーカスは速くなく、その正確さにも(多少の)疑念があった。電池の規格が2CR5で、保ちも宜しくない事情もあり、わざわざ中古を探して使う気にはなれず、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にお薦めも出來ない。

 

 であれば。來るべき…私はそう信じたい…ネクスト・ペンタックス17が、このSAMURAIスタイルを引き継いではくれまいかと思ってしまう。

 ライカ判28/50/80ミリ相当くらいの三焦点切り替え。

 簡単なオートフォーカス

 プログラム露光/絞り優先自動露光。

 巻き上げと巻き戻しは手動、フラッシュは非内藏でかまわない。レンズにはタクマー銘、AOCOマークを附けてくれたら、一部の数寄もの(私を含む)が大騒ぎするだろう。ペンタックスがESPIOで蓄積した技術と、17で培った工夫を転用すれば、困難はあるにせよ、解に到るのは間違いない。外附けのグリップやフラッシュだの、卓上三脚だの、オプションまで含めたスタイリングを成り立たせられれば、令和に"メカメカ"が蘇ると思うのだが、如何だろうか。