閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1227 二万年

 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏はお気づきだらうが、前月…令和七年彌生は、意図的に現代仮名遣ひで押し通した。押し通して、なんと書きにくいのかと思つた。併し

 「仮名遣ひが変つたねえ」

 「讀み易くつて、いいよ」

などといふ聲はまつたくなかつた。こんなことを書いたら、すりやあ君

 「"親愛なる讀者諸嬢諸氏"の絶対数が少いからさ」

冷静な突つ込みが入りさうな不安も無くはないが、聞こえなかつた事實は動かない。なので歴史的仮名遣ひで書いても、それが不満の種にはなるまいと、(この場では)考へておく。

 

 さ、云ひ訳は終つた。

 ここからは安心して、書き馴れた歴史的仮名遣ひで話を進めますよ。

 

 ウルトラマン…ここで云ふのは初代の…は、最終回で自分を迎へにきたゾフィー

 「私は二万年生きた」

と云つてゐる。ウルトラ一族の時間の概念は判らないが、日本語の會話であることから、"二万年"も地球星人の時間スケールに翻訳されてゐると考へて、無理はなささうに思ふ。

 

 おそらくは世界で最もふるい文明群のひとつであるメソポタミアがざつと一万一千年前。黄河域の文明群が九千年前。エジプトの文明とインダス河の文明群が概ね五千年前。詰りウルトラマンは、地球星人の文明史が始まるはるか以前に生れたことになる。序でに云へば、我らが日本國の地域では、縄文文化の萌芽すら、見られない時期でもある。

 

 そこで気になるのは、ウルトラマンの二万歳は、地球星人の何歳くらゐに相当するのかといふこと。第一話で護送途中で逃げ出したベムラーを追つてゐるから、社會人に置き換へれば、前線で任務をこなせる年代…勝手な印象で云ふなら、卅台半ばから後半くらゐではあるまいか。円谷の公式な見解はどうなんだらう。知りたくはあり、知りたくもなし。

 大体ウルトラ族の成長の度合ひがよく判らない。我われで云へば、おほむね廿年前後で成年と見做されることが多からうが、長命種はきつと、成長が緩かにちがひない。ウルトラマンZは確か五千歳で、地球星人の高校生くらゐとか、そんな話を聞いた記憶がある。いや待てよ、Z君はウルトラマンと同族とは、明言されてゐなかつたか。

 

 生物として異なる種の寿命…時間の経過を比較して、何の意味があるのかと訊かれたら、何の意味もないと応じざるを得ない。然もウルトラ一族は今のところ、架空の生きものな上、明快な設定があるわけでもない。

 併し。併しですね。ウルトラマンと云へば、我われにとつて、巨大なヒーローのイコンではありませんか。私と同世代の讀者諸嬢諸氏で、一ぺんも

 「ウルトラマンに逢ひたい」

と願はなかつたひとがゐる筈はない。従つてそのウルトラマン(たち)が、お兄さんなのか、小父さんなのか、はたまた弟分或は同世代なのか、何ともどうにも気になつてくるのは、理の当然だと云つていい。

 

 ところで知る限り、歴代のウルトラマンは、地球星人より(やや)歳上に描かれてゐることが多さうに思ふ。ウルトラマンメビウスに登場したサコミズ隊長とゾフィーの同化が

 「地球星人とウルトラ族が、ほぼ対等(いや互にひ敬意を払ひあふ、と云ふべきか)だつた」

唯一の例外ではなからうか。まああのひとは、ウルトラマンデッカーのムラホシ隊長と共に、"部下として働きたい"隊長の双璧だから、宇宙警備隊長であるゾフィーから、立派な地球星人と認められて、何の不思議もない。

 私だつてサコミズ隊長のやうな大人になつてゐれば、今ごろきつと、ウルトラ一族のたれかと共に、怪獸退治の専門家になつてゐたのになあ…などと云つたら、ウルトラマンゼロに咜られるだらうか。

 

 「二万年、早いぜ」