閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1271 確信のニラレバ

 [1267 不意の酢豚]の稿で、ニラレバ炒めに目を向けてゐたのに、うつかり酢豚を註文した話をした。酢豚もうまかつたから、その点に不平不満は無いが、陋屋に帰つてからも、ニラレバ炒めは引つ掛つた。

 

 かういふ時、役に立つ(とは迷惑を蒙るのと殆ど同義でもある)のが『檀流クッキング』で、そこには、レバーに血抜きを施し、下味をつけ

 

 「中華鍋の中にラードを強く熱し、レバーにカタクリ粉をふりかけて指でまぜ(中略)、火が通った頃、ザクザク切ったニラを放り込んで一緒にまぜる」

 

と書いてある。強火で手早く炒め、"ニラがシンナリしかかった"ところを見計らひ、大匙一ぱいの醤油を絡みつかせるさうで、大匙一ぱいの醤油以外、具体的な数字も細やかな手順もないのに、立ち上る煙、焼けたニラとレバーと醤油の匂ひが判るのは、文學の(傍迷惑な)ちからと云つていい。

 

 一讀、大して六つかしい手順ではない。

 お金だつてことさら、掛かりはしない。

 それはまあ、その通りだが、どうも私の引つ掛りは、"お品書きで目にした"点が、小さくないらしい。これは止む事を得ない。作るのは後日にまはすことにして、今回は"ニラレバ炒めを食べる"為、同じお店へと足を運んだ。

 席に着いて、品書きは手に取らず、ニラレバ炒めを、定食でと云つた。回鍋肉に青椒肉絲に麻婆茄子、或は坦々麺と半炒飯(後から入つたお客が註文してゐた)や中華丼と半ラーメンのセットに、惑はされてはならないからね。

 待つこと暫し…と云ふほど、待たされずにすんだ。レバーと烏賊は何しろ、だらだら火を通すと、硬くまづくなつてしまふ。中華鍋が厨房で、素早く、叉ダイナミックに振られたにちがひない。

 一見、もやし炒めかと思つた。

 鼻孔を擽る匂ひで、そんなことはないと解つた。

 塩胡椒、醤油。それから中華料理で用ゐる調味料も使つてゐるのだらうが、味つけ自体が目的の、複雑怪奇な味つけではない。韮はもちつと、歯応へが残した方が、好もしいか知ら。レバーの大きさや火の通り具合は、申し分なし。

 韮とレバーともやしを、ごはんに乗せるのも叉佳し。但し酢や辣油での、味の(再)調整はうまくゆかなかつた。元の味つけが、さういふ小細工を必要としないくらゐ、しつかりしてゐたと、考へておかう。

 ソップも搾菜も杏仁豆腐も全部平らげ、御勘定を済まし、お店を出てから、麦酒を呑まなかつたなと思つた。仕事中でもなければ、呑むべきでない…と判断するほど私は、殊勝な男ではない。その日のからだの調子が、麦酒を求めなかつたのだらう、多分。

 なので今度の定食は、麦酒をやつつけながらと決めた。

 それがレバニラ炒めになるかまでは、確信が持てない。