閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1272 用意が容易で片附けが樂な味噌汁

 歳を経た獨居のめし…家で摂る食事は、毎年毎月毎週毎日毎回、確實に無精を優先する方向へ進んでゐる。

 但しここで云ふ無精は、用意が容易、且つ片附けが樂なのを指してゐるだけで、それで不味くなるのはこまる。

 

 だつたら、カレーライスや親子丼の類になりさうで、それが惡くないのは当然だが、ハヤシライスだの牛丼だのに主役を張り續けられるのもこまる。

 ワンプレートか、一枚のお皿に、ごはんと主菜副菜野菜漬物まで、纏める方法も知つてゐる。何度か試して、残念ながら好みに適はない形式だつた。

 

 何とかならんものかなと思ふ。

 それで具沢山の汁椀が浮んだ。

 

 単純なのか名案なのか。

 我ながらよく判らない。

 

 とは云つても、白いごはんの隣に、長葱、油揚げだの厚揚げだの豆腐だの、菊菜、菠薐草、榎茸、大根、鮭なぞの白身魚、豚肉の切れ端か骨つきの鶏を入れた、味噌仕立ての吸ひものに、半熟卵を落した大椀があれば、おかずと汁ものを兼ね、お摘みにもなる。

 時節によつて、豚汁風でもよく、粕汁仕立てで叉よく、お餅や牛蒡や蒟蒻、半熟卵の代りにうで玉子、天麩羅…薩摩揚げを入れてもよい。味噌の種類は勿論、粉山椒だの、七味唐辛子だの、酢や胡麻油や辣油だので、味はひに様々の変化をつけることも出來る。

 

 お出汁をいちから引くなら、話も或はちがはうが、平成の頃から"出汁入り味噌"はあり、もつと云へば即席味噌汁も各種ある。汁ものの具を、パックに纏めたのだつてある。詰り用意に大した手間は掛かるまい。葱や生姜を継ぎ足し、火を入れれば、日保ちだつて多少はするだらう。

 この稿を書いてゐる時期を考へれば、熱い汁ものは如何か知らと、不安を感じなくもないけれど、冷房の効いた部屋で喫む熱い珈琲はうまい。ならば味噌椀もきつと、同じではあるまいか。饂飩のつけ汁にし、おじやに仕立てても、うまいにちがひない。

 

 だつたらいつそ冷さうか。ごはんに打掛けて、焼き鯵か焼き鯖(近所の魚屋さんで贖へばいい)の身を毟り乗せ、胡瓜と生姜と茗荷を刻み、胡麻と揉み海苔を散らせば、冷ツ汁擬きになりさうな気がする。尤もこれだと、"用意が容易、且つ片附けが樂"から、ぐつと離れてしまふ。

 樂をして冷すなら、根深汁…太い葱のお味噌汁くらゐ、簡潔なのがいいかも知れない。平皿に〆て盛つた素麺(冷や麦でも)にたつぷりかけ、揚げ玉(出來合ひも賣つてゐることだし)を振つたら、食慾を感じない暑い午后にも、さらりと平らげられるだらう。

 

 せっかくだもの。具沢山から根深汁風まで、熱いのから冷たいのまで、変化をつけながら、樂みたいものだが、どんな手順を踏めば、"用意が容易、且つ片附けが樂"だらうか。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏の、豊かな経験を伺へれば有難い。