閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1273 好きな唄の話~SHE'S A BIG TEASER

 ある日、つけつ放しにしてゐたラヂオから、流れてきたんである。桑田佳祐の聲とは、直ぐ解つた。併し何といふ題だつたか。メロディに覚えはある。全篇英語の歌詞も、意味は兎も角、一部は記憶にある。苛々するなあ、かういふのは。

 それでサビに SHE'S A BIG TEASER と出て、さうだと安心した。何で安心したかは、判らない。それから發賣当時…昭和六十三年…、レコードを手に入れたと思ひだした。

 

 色々と訳せるけれど、この唄の"BIG TEASER"なら、"すンげえ、思はせぶりなヲンナ"くらゐか。粗つぽく、惡女に引つ掛つ(て仕舞つ)た男の愚痴…恨み言の唄と云つていい。

 桑田佳祐には、かういふ情けない…イケナイ女に惑はされる男の様(たとへば「ハートに無礼美人」)を、好んで描く気配がある。それも唄の調子としては、やけに恰好よく。

 

 (小林克也を招いた、「死体置き場でロマンスを」といふ例外はあるけれど、あれは"ヲンナに躓いた"のではなく、"香港ディスコでの浮気を隠しきれなかつた"男の唄だから、情けなさの質がちがふ)

 

 じしんの投影なのか知ら。

 

 正直なところ、さう思ひたくなるし、だとしたら、随分と捻くれ…いや凝つた投影法をしたとも思ふ。何しろ(曲名は敢て云はないが)、別離となつた女を恋ふ情けない男のバラッドのB面が、この唄である。A面で振られ、B面で別の女の誘惑に振り回されるのだ、余程に懲りない態度と云つていい。

 「その懲りねエ助平心こそ、男ぢやあねエか」

確かにその通り。(本性は兎も角)ヲンナつてのは、可愛いなあと思ひたがるのが、男といふ生きものなので、桑田佳祐ほど、その機微を理解してゐる唄ひ手も少い。