閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1283 締め括りの鶏皮ぽん酢

 鮭は皮の直ぐ下の辺りがうまい、とはよく耳にする話で、確かにその通り。脂と肉を味はふのに、最良の部分だと思ふ。勿論この事情は、鶏も同じである。

 併し鶏の場合、皮の直ぐ下といふより、皮そのものがうまい。焼き鳥の種になつてゐるのがその證拠。だつてまづい部位は、お品書きに記されないでせう。

 まあ尤も。串焼きの鶏皮は、扱ひが六つかしい。焼き手の技倆が判り易い点で、葱に並ぶと思ふ。なので“皮を串で”と註文するのは、信用した呑み屋に限る。

 とは云つても、鶏皮は食べたい。

 さういふ時、我われには、鶏皮のぽん酢和へ…即ち鶏皮ぽん酢がある。蛸の唐揚げやもつ煮、串焼きや串揚げを平らげ、空腹は満たされたけれど、も少し摘みたい気分に、まつたく丁度よろしい。

 知る範囲だと、ぽん酢に和へる鶏皮の仕立ては、焼くのと揚げるのに大別される。私の好みは後者。馴染んだ呑み屋の大将に云はせると、揚げる方が面倒らしい。

 気持ちは判るが、ぢやあ焼きでかまひません、とはなりにくい。揚げてぱりんとなつたところや、厚みの分で軟らかさの残つてゐるところを、樂みたいもの。

 主役が鶏皮とぽん酢なのは、まあ当然として、水菜と葱と胡麻の色み、歯触り、香りが、その主役を實に巧く引立ててゐる。焼酎ハイをゆるゆる呑みながら、摘む鶏皮ぽん酢ほど、夜の締め括りに似合ふ小鉢も、さうは見当らないと思ふのだが、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には如何だらうか。