閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1337 地味ではあるが滋味に満ち

 農林水産省の、[にっぽん伝統食図鑑]で、薩摩揚げに就て見ると

 分類(大):水産

 分類(小):練り物

なのださうで(URLは以下の通り)、事情は察する他にないとしても、何と云へばいいのか、愛想が無いなあと、息を吐きたくなる。

https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/menu/satumaage.html

 更に上のサイトから引用しませう。

 ※引用箇所は閑文字流に改行や省略を施してゐます。

 

 ■主な使用食材

 魚のすり身、豆腐、卵、砂糖、地酒(灰持酒

 ■歴史・文化、関連行事

 さつま揚げは江戸時代、島津斉彬薩摩藩主だった頃に生まれたと伝えられている。

 発祥は諸説あり、紀州はんぺんや、かまぼこの製法にヒントを得て、保存性の高い揚げ物料理を考案させたという説。当時、交易が盛んであった琉球から伝わった、魚のすり身を油で揚げた「チキアーギ」が元祖であるという説などだ。

 あじやいわしなどを無駄にしないよう、保存食品として工夫したものとも言われている。前項で紹介した「つけあげ」という呼称は、この「チキアーギ」が転じたという説がある。

 ■製造方法

 魚をすり鉢ですりつぶす。水切りした豆腐、卵、片栗粉などを加え、砂糖、地酒(灰持酒)、塩で味つけしながら、再度すり鉢でする。なめらかな粘りが出るようになったものを成型し、油で揚げる。形は棒状や四角、小判型、円盤型などさまざまである。形を整えない「ちぎり天」と呼ばれるものもある。

 すり身にはいわし、あじ、とびうお、しいら、きびなご、えそなど様々な魚が使われる。にんじん、ごぼう、しそ、れんこんなどの野菜を入れる場合もある。

 

 少し説明を加へると、灰持酒は、“アクモチザケ”と訓む。日本洋酒酒造組合の、[甘味果実酒とは](URLは以下)から引きますね。

 ※こちらも閑文字流に改行や省略を施してゐます。

https://www.yoshu.or.jp/pages/89/

 

 ■灰持酒とは

 清酒のもろみを搾る前に保存性を高めるために木灰を添加し、搾った酒です。

 木灰は清酒に含まれる酸を中和します。このとき、酒の成分であるアミノ酸が糖類と反応して灰持酒は赤褐色に呈色します。

 木灰を用いることにより独特の風味ととろみがつきます。もろみに木灰を加えてから、清酒と同じように搾るため、木灰が酒に残ることはありません。

 

 鹿児島…薩摩と云へば、何をおいても焼酎と思ひこんでゐたが、日本酒の文化圏に含まれて当然である。木灰で“保存性を高める”必要があつたのは、気温や湿度への対応だらう。工夫だなあ。酸の中和によつて、獨特の甘みを得るさうで、味醂に近しいのかと思ふ。

 意外なのは島津齊彬の名前が見られること。日本史、ことに幕末史に興味を持つひとには、お馴染みの名前だと思ふ。十九世紀初頭から中頃の薩摩島津家当主。詰り薩摩揚げの歴史は精々二百年足らず。驚きましたね。念を押すと、島津の殿さまが、薩摩揚げを發明したのではない。ただかれが推し進めた殖産興業の政策、伝統的な密貿易、琉球奄美からの簒奪と食生活の影響が、この頃に到つて、食べものまで波及した可能性はある。

 上にあるやうな薩摩の薩摩揚げは、残念ながら、食べたことがない。焼酎のお湯割りに絶好だらうから、あの南國へ行く機會に恵まれれば、断然試さねばなるまい。さう云へば伊丹十三は、八対二のお湯割り(焼酎が八)を好んださうだが、隣に薩摩揚げはあつたのだらうか。

 その辺の事情はさて措き、その辺の呑み屋の品書きにも薩摩揚げはある。平たいのを焙つて、お刺身のやうに切り、生姜醤油(と大根おろし)で摘むお皿。或は細切りを鶏肉や青菜で、さつと焚きあはせた小鉢。何がどうとは云ひにくいけれど、兎にも角にもうまい。鮪のとろのやうな濃厚さは持たず、衣揚げの花やかにも欠け、食卓酒席の眞ん中に似合はない…かう云ふと薩摩人から、厭な顔をされるだらう…のは事實として、卓のどこかにあればきつと喜ぶ。

 鹿児島…薩摩で食べるなら事情も異らうが、東都の呑み屋で摘むとしたら、焼酎ハイでなければ、黑糖焼酎の水割りでせうね。豚の角煮(叉はもつ煮)とあはせたい。地味ではあるが、滋味に満ちた質実剛健な肴で、この組合せなら、島津の賢公に差し出しても、頬を綻ばせてくれるにちがひない。