閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1347 ”西へ”上る腹積り

 師走に入つた。”西へ”上る予定を立てねばならない。

 東海道新幹線は時期によつて、通常期、閑散期、繁忙期、更に最繁忙期と、運賃が変動する。従つて(最)繁忙期…今回の年末年始で云へば、師走廿六日から、睦月の四日の十日間…は避ける。混雑する時期、運賃を上げるのは、不合理に思へなくもない。まあこの期間、西上東下をしなければ、目を瞑つておける。

 使ふのは、のぞみ號とする。こだま號にゆるゆる乗るのも捨て難いとして、心臓への負担を小さくする点で、今回は移動の利便…速度が優先される。殺風景な判断なのは判つてゐるが、止む事を得ない。

 これで先づ、西上の期間は、師走廿五日以前から、明けて睦月の五日以降と、大まかな範囲が決つた。ダイヤグラムを見ると、のぞみ號は幾らでも出てゐる。午后早めの時間帯で、出來れば新大阪驛止りを探さう。

 後はのぞみ號で何を呑み、叉摘むかといふことで、これは熟考を要する。東京驛から新大阪驛は、大体二時間半。但し東京驛から新横浜驛、京都驛から新大阪驛は、呑み喰ひに当てない。樂めるのは實質的に、二時間程度と云つていい。尤もこの時間を呑み續け、食べ續けるのではないけれども。

 とは云へお辨當をひとつ食べ、御馳走さまで済ますのは、何ともあぢけない。そもそも罐麦酒を二本に、葡萄酒かお酒を呑まうと思つてもゐる。ぢやあサンドウィッチか早鮓にお惣菜、罐詰、乾きものを買ひこめばいいかと云ふと、それはそれで持てあますのは間違ひない。まつたく、六つかしくつていけない。

 尊敬する吉田健一の随筆を讀むと、夜行急行の乗客になる前、気に入りの料理屋に頼んでゐた折詰(中身は何だつたらう)を受取り、シェリー酒を贖つた、などと書いてある。シェリーを用意するのは、醉ひの質が似てゐて、お酒へとなだらかに移れるからだといふ。何とも優雅な樂み方で、嫉妬する気にもなれない。

 併し私にだつて、気に入りのお店(料理屋ではないけれども)はある。特別な用意までは無理でも、その店の酒菜を持ち帰る方法は…いやこれも無理が大きい。私の気に入りは呑み屋だから、受取れるのは最短で前夜。どう考へたつて、旨く食べられる道理は無い。仮に受取つた足でこだま號に乗つたら、今度は新大阪驛着が遅い時間になつてこまる。仕方が無い、吉田流は諦める。

 と、ここまで書いた以上、一応の腹積りも書いておくのが望ましからうから、記すことにする。別に凝つた考へではない。チキン弁当かシウマイ弁当、或は鯵の押し寿司を主役に据ゑ、チーズかミンチカツかコロッケか鯵の南蛮漬けか、鶏の唐揚げか餃子か春巻か、その辺りから一品か二品撰べばいい。

 主役候補の三種は、いづれも(そこそこに)旨い一方、単品で完結させるには、やや無理がある点が共通してゐる。裏を返せばそこに、当日の空腹具合や気分で、あれこれ変化をつけられる…と見立てることも出來、であれば中々、具合が宜しい。いや結局、幕の内辨當に任せる気分になるやも知れないが、それはそれで惡くない。この手の腹積りは、厳密すぎないまま留めおく方が、樂みの余地があつて好もしい。

 

 さてでは改めて、麦酒を呑みながら、ダイヤグラムをじつくり眺め、車内での呑み喰ひの時間を想像することと、致しませうかね。