閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1389 近所に泊る

 東都廿三区内に棲んでゐるのが前提。

 だから近所と云つても、廿三区外が候補になる。

 だけど近所なのだから、各驛停車で行ける範囲。

 何をしに行くわけでもない。

 驛近くの安ビジネスホテルに部屋を取り、その辺のマーケットでちよつと豪華なお惣菜とお酒を買ひこんで、後先を考へず呑む。ホテルの近くによささうな立ち呑み屋があれば、覗いてみてもいい。

 

 そんなの別に、歩いて行ける呑み屋さんだつて、かまひますまい。との指摘は間違ひではないのだが、呑み屋に歩いて行けば、歩いて帰らねばならない。醉つて歩いて帰るのは面倒である。それに躓き倒れてしまふのは怖い。詰りなーにんも考へずに呑んで醉つて、そのまんまひつくり返れるのが、望ましいので、さうなると矢つ張り、泊りこむのが望ましいといふ結論に到る。うーむ。我ながら論理的だなあ。

 

 なら寧ろ特別急行列車を奢つて、甲府辺りに足を運ぶのは如何です。さう提案されるかも知れず、それは實に魅力的でもある。ただあの町に行つて、ミレーのお針子やマリヤさまに會はないとはゆかず、或は葡萄酒藏を訪ねない手もなく(何しろ素晴しいワイナリが、甲府驛から歩ける場所にあるんです)、その前に特別急行列車あずさ號で、お辨當と罐麦酒と葡萄酒の小壜をやつつけもする。詰り落ちつかず、そもそも目的も異つてしまふ。

 

 と書いたところで、我が辛辣な讀者諸嬢諸氏から、わざわざ出掛けなくたつて、毎週毎夜やらかしてゐるくせに、と呆れられさうである。まあ半分くらゐは正解。併し陋屋でやらかすと、後片附けや洗ひものが出來る。手を取られるのは自分である。邪魔くさくつていけない。こちとらそんなことをはふり出し、序でに私用も丸ごと投げ出して、勝手放題に食べ散らかし、罐麦酒や罐酎ハイや葡萄酒やお酒を、気儘に呑みたいんである。

 

 さて、どこがいいだらう。

 思ひついたところだと、立川や昭島辺り。陋屋から一本で行けるし、(奥)多摩の酒藏…小澤、石川、田村の三酒造…から近い所為で、マーケットやコンビニエンス・ストアでも、そこの銘柄を見掛けることが珍しくない。

 午后早めに出掛け、罐麦酒、罐酎ハイも一緒に、早鮓や鶏の唐揚げ、ハムカツ、烏賊のフライ、韮とレバーの炒めもの、マカロニサラド、若布の酢のもの、菠薐草の胡麻和へ、翌朝用の罐珈琲に散し寿司か助六寿司、叉はサンドウィッチも忘れずに買ふ。

 チェックインの後、すかさずシャワーを浴びたら、先づ麦酒。それからテレビジョンのスポーツ中継をB.G.V.に、早速始めたい。これくらゐなら、一泊の代金を含めても二万円程度だらう。いやまあ、大きな金額にも思へるけれど、その二万円で得られるだらう、何と云へばいいか、この際だから気の緩みと云はうか、気を緩められる時間に、どれくらゐの値うちを附けられるかが、無駄か高々かの分岐点になる。私の場合、どうなるか。それは實際、勝手放題に食べ散らかし、気儘に呑んでみないと判らない。