この手帖で、ライカⅢcを話題にするのは、何度目になるだらう。まあ、気にはすまい。強て理由を挙げるなら、何となく好意を感じてゐるからで、併し好意を感じる理由までは解らない。
廿年だか卅年前だか、ごく短い期間、持つてゐた。使つたかどうか。レンズに何を撰んだかも、記憶に残つてゐないが、多分50ミリ/f3.5エルマーだつたらう。ねぢマウント・ライカの基本レンズだもの。
率直に云ふと、令和八年の今、このⅢcを手に入れても、私が使へるとは思はない。こちらの視力が問題だからで、修理の専門家に持ち込んだところで、如何ともし難からう。ただ使へるか否かは横に、Ⅲcに50ミリ/f3.5エルマーの組合せは、時々慾しくなる。
手近なところに『ライカのアクセサリー』(中村信一/朝日ソノラマ)の上下巻があつた。まづい文章(編輯者は何をしてゐたのだらうか)に目を瞑りながら、ざつと頁を捲ると
・FISON/12510叉はIROOA/12751(50ミリ/f3.5エルマー対応のフード)
・VOOLA(フードを取り附けた50ミリ/f3.5エルマーの絞り調整リング)
・SBOOI(50ミリ用の外附ファインダ)
・NOOKY(50ミリ/f3.5エルマー用の近接撮影装置)
かういふアクセサリがあると判つた。それぞれの細かい説明はしませんよ。知つたところで、役立つ場面に出くはすことはなからうから。
さて。
近接撮影に特化したNOOKYは別に、上の全部を附けたⅢcは、物々しい姿になりさうだ。更に挙げてゐないライカピストル(SCNOO)や、ライカビット(SYOOM)を追加したら、物々しさを通り越し、重々しさも飛び越すのは間違ひない。ひとによつては、単に勿体振つた態度と誤解…いや理解するかも知れない。
こんなことを云ひだしたのは、佐貫亦男の『ドイツカメラの本』(小学館文庫)が惡い。ミノックスに就て触れた箇所があつた。手間を惜しまなければ、素晴しい寫りを見せてくれミノックスだが、その手を掛けられない筆者は、附属品を集めて、敬意を表することにしたとあつて、随分と屈折した樂みと云つていい。
ライカでその屈折した樂みを味はふには、Ⅲc…ここで云ふⅢcは、簡易機のⅡc/Ⅰc、派生機のⅢd、發展機のⅢfとその簡易機のⅡf/Ⅰfまで含めてゐる…が、最良の撰択だらうと思ふ。М3以降の機種になると、機種本体の便利の度合ひがそもそも高い。従つてあれやこれやのアクセサリを附ける必要性を感じにくい。これを突き進めると、ライカフレックスからニコン…即ち一眼レフに辿り着くのだが、踏み込むのは止めにしませう。
要するに私が、ライカⅢcに50ミリ/f3.5エルマーの組合せを慾する(時がある)のは、不便を(強引に)解消し續けたライツ社への経緯を示したいが為で、これを使つてブレッソンや木村伊兵衛の後を追はうなど、サハラに落ちた一粒の砂金ほどにも考へられることではない。佐貫の云ふ“敬意を示す為の本体やレンズと附属品”が、私にとつては、ライカⅢcと50ミリ/f3.5エルマーといふことになる。その理由は何となく好意を感じるからで、併し好意を感じる理由までは解らない。