閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1402 しらすおろしは、ちよいと面倒

 しらす干しとたつぷりの大根おろし。

 そこに醤油をひとたらし。

 生姜や檸檬があつたら、ちよいと加へるのがいい。

 そのままお摘みになるし、ごはんに乗せても旨い。

 

 かういふ小鉢が、呑み屋の品書きにあれば、私はきつと註文する。曇り空の平日の午后、ひとりで潜りこんだ席から、仕事で行き交ふひとを眺め、まつたくおれは、駄目な小父さんだなあと自嘲しながら、やつつけたい。捻ねた態度と呆れられさうだが、これも叉、呑み助の樂みー少くとも、そのひとつなんである。

 とは云へ、私が足を運ぶ呑み屋の品書きには、しらすおろしの字が見当らない。下準備が手間とも思へない。若ものが好みさうにないのは確かとして、地味に過ぎるから、賣れないのか知ら。或はさほど、儲けにもならない一品で、長ツ尻をされては、たまつたものぢやあないと思つてゐるのだらうか。

 だつたら家で用意すれば、万事解決する。

 大根としらす干しと醤油くらゐ、たれにだつて直ぐ、揃へられるし、生姜や檸檬も同じですよ。

 と云はれたら身も蓋もなくなる。誤解されてはこまるから念を押すと、出來ないのではない。ただ大根をおろすのが、面倒でたまらないだけでー無精の謗りは免れまいね、これぢやあ。併し呑み屋や定食屋には、家で用意は出來ても、その用意が何となく面倒な料理を、食べさしてくれる役割だつて、あると思ふ。

 

 しらす干しと大根おろしに、醤油をひとたらし。

 呑むのはお酒…日本酒でせうね、この場合。一合の温燗を徳利で。小さな猪口に注いで、ちびちび呑み、且つちまちま摘む。ほかに焼き魚の一切れ、焼き鳥の一皿でもあれば、申し分ないといふものだ。