閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1099 偶さかの冷し中華で

 東西万能調味料番附があるとしたら、醤油が東の横綱を張るのは疑ひない。対する西の横綱はマヨネィーズであらう。調味料史を俯瞰すると、マヨネィーズは随分とわかい。完成から五百年も経つてゐない筈で…マヨネィーズ史をいちいち繙くのは面倒だから省く。興味ある讀者諸嬢諸氏は、マオンのソースでお調べなさい。

 料理が口に適はなくても、マヨネィーズをかければ、大体は何とかなる。野菜は勿論、獸肉、魚介に似合ひ、温かくても冷たくてもよろしい。本來の使ひ方ではないから、マヨネィーズ會社のひとは憮然とするだらうが、私のやうに好き嫌ひが多い男からすると、たいへん有難い。序でながら、マオンのソースは元々、鶏肉料理用に考案されたといふ。

 さて併し、その便利でうまいマヨネィーズを、使つてもらひたくない料理がひとつ、ある。勿体振りはせずに云へば、冷し中華がそれであつて、たれが考へたのだらう。冷し中華にマヨネィーズを添へるのは、東海に多い印象はあるが、切つ掛けが東海人の頭の中にあつたのか、どうか。

 経緯はさて措き、その結果は感心はしない。辛子は判る。器の隅つこで、たれ…正しくはつゆなのかソップなのか…に溶けば(混ぜはしない)、味の変化を樂める。マヨネィーズだと、さうはゆかない。もしかしてハムや胡瓜、木耳に塗るのか知ら。いや併し、ハムも胡瓜も木耳も、麺やたれと一緒に食べる筈だから、話が通らない…気がする。

 さういふことを、コンビニエンス・ストアの冷し中華(マヨネィーズは無し)を食べながら考へた。それで實態がどうなのか、東海人に訊ねてみたいとも思つたが、残念なことにあの地方には知人がゐない。