閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

563 愚か者の物慾

我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は外題を見て、何を今さら云ふのだと苦笑ひを洩らしたにちがひない。わたしも今さらだなあと思ふ。こんなところで気が合つても、仕方ないのだけれど、まあそれも仕方がない。 リコーのGRデジタルⅡを手に入れて、満足…が妙なら、無邪…

562 伊豆國熱海

静岡県は東西に広い。律令下で云ふと西から遠江、駿河、そして伊豆の三國にほぼ相当するから、大層なものである。明治の政府は何を考へて、一括りにしたのだらう。律令國がおほむね、制度が成り立つ前から在つた豪族の勢力範囲を、大和政権の行政単位に仕立…

561 甲斐國甲府

都道府県の面積の順位は卅二位。案外と狭いから驚いた。 山梨県。 参考までに順位のひとつ上は京都府、ひとつ下は富山県。 但し"ひとが住める範囲の面積"に限ると、順位は一ぺんに四十五位まで下がる。山岳が八割方を占める所為である。 地図上で見ると、不…

560 散髪屋の立ち呑み

世の中には立呑屋といふのがある。 廿歳を少し過ぎた頃、ある散髪屋の親仁さんが、バリカンを使ひながら 「中々エエもンでつせ。きゆうきゆうに詰めて、ダーク・ダックスで呑みますねン」さう教へてくれ、すぐさま奥さんに 「アンタ、お兄ちやんに、ナニを云ふ…

559 揚げたカレーの麺麭

本当かどうか、外ツ國から來た紳士淑女は、日本の惣菜麺麭を見ると、驚くらしい。好意的な驚きだと信じたいが 「こいつら、一体何を考へてゐるんだらう」と疑念を抱いてゐる可能性もある。コッペパンにスパゲッティ(それも炒めてケチャップで和へた)のを挟んだ…

558 迷ひの樂み

[553 帰つてきたGRデジタルⅡ]で、ほんの少しカメラ・バッグについて触れた。要はGRデジタルⅡとアクセサリを持運ぶ手段で、この稿を書いてゐる時点で、どうするかは決つてゐない。迷ふ。などと云つたら、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏はきつと 「どうせ迷つてゐる…

557 豆腐を炒めて

中華料理の凄みは、強い焔の使ひ方が巧いことだと思ふ。 いやこれは印象の話。 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にもあるでせう。 最初から最後まで熾き續ける烈しい火にさらされる、あのごろんとした中華鍋の中で跳びまはる青梗菜や烏賊の切身や削いだ筍。 實に旨…

556 南國人の食べもの

豚肉をごとごと切つて。 鍋でごとごと煮上げる。 それで角煮が出來る。嘘ぢやあない。ごとごと煮る時に何をどのくらゐ用ゐるかが問題ではあるのだが、作り方を煎じ詰めれば、たつた二行に纏まる。 上手が作つた角煮は本当にうまい。肉と脂がほろほろ、口の中…

555 鱈と馬鈴薯を手始めに

英國の食べものと聞いて聯想するのは、ロースト・ビーフとサンドウィッチ。ドーヴァー・ソールにジェリード・イール。それからフィッシュ・アンド・チップスである。想像力が貧困にもほどがあると笑はれさうだが、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏だつて、その辺の…

554 白髯翁の目を盗み

しだらない男であるところのわたしであるから、大体の酒精は見境なく呑む。 麦酒。 葡萄酒。 焼酎。 泡盛。 ヰスキィ。 勿論お酒も呑む。酎ハイも呑むしカクテルも呑む。どうも身持ちの惡い感じがされるけれども、事實がさうなのだから仕方がない。 そこで困…

553 帰つてきたGRデジタルⅡ

念を押すとGRⅡではない。 随分と旧型の機種である。 詳細な仕様はいちいち書かない。リコーのサイトを見れば直ぐに判るし、現代のデジタル・カメラと較べて、どこをどう見ても優る箇所は見当らない。 鞄の隙間に滑り込ませるくらゐの大きさは、挙げてもよさ…

552 丸太花道、東へ

その前に令和二年末のある日の話をする。 旧い友人が十年ほど、加西に住んでゐる。単身赴任なので年の瀬を自宅で過すのは当然。その一日を縫つて会つた。巷間、色々と騒がしくあるけれど、互ひに年齢が年齢である。次の機会を得られるものか、まことに怪しい…

551 長閑な春

無事に新しい年がやつてきた。 春、すなはち長閑。 初春の お屠蘇お雑煮 朝寝かな 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に、心より新春の御挨拶を申し上げる。