閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

397 貴族と主婦のソース

ウスター・ソースはどうやつて生れたかといふのは曖昧である。[ウスターソースの起源と歴史とは-日本のソースは日本独自の調味料!?] https://plustrivia.com/originfoods/804/ を参照すると大きくふたつの説がある。 ●マーカス・サンディ(英國ウスターシャー…

396 数自慢

或日ふと気になつて、手元にある丸谷才一の文庫が何冊あるのか数へてみた。三十二冊あつた。内訳は以下の通り。 朝日文庫 一冊 講談社文庫 二冊 新潮文庫 四冊 ちくま文庫 三冊 中公文庫 三冊 徳間文庫 一冊 福武文庫 一冊 文春文庫 十七冊 『忠臣藏とは何か…

395 常に家に

中華料理と云へば最初にたつぷりの油を使つて強い火で一ぺんに炒めあげる様が浮ぶ。事實は兎も角さういふ印象があるのだから仕方がない。たとへば烏賊。たとへば青梗菜。或は筍。確かにずわつと火を通すのがうまい。だけでなくかれらは我われが炒めないだら…

394 豊太閤も及ぶまい

お弁当と聞くとどうもわくわくする。特別な食事と感じられるからだらうと思ふ。特別な食事といふのは、家の中で食べないのとほぼ同じで、絢爛豪華とは意味がちがふ。とは云ふものの、絢爛豪華な食事より旨いかも知れない。いやそれは不正確な比較で、絢爛豪…

393 神無月の芽出度い週末

神無月某日。土曜日。前日までの雨が綺麗にあがつた気分の佳い朝に家を出た。東中野驛まで歩いて中央緩行線に乗り、中野驛で快速に乗換へて立川驛まで。きつね蕎麦(四百十円。残念な事に余りうまくなかつた)を啜つて青梅驛へ。ここまでは順調な乗継ぎであつ…

392 生きとし生けるものの財産

“日本詞華集”と“生きとし生けるものいづれか歌を”と題された書評がある。前者は昭和五十九年の『週刊朝日』、後者は平成八年の『毎日新聞』で發表された。いづれも樋口芳麻呂校注の王朝和歌の小詞華集(岩波文庫所収)が取上げられてゐる。筆者は丸谷才一。日…

391 文化的な本能

◾️壱 時々、“本の話”と題して讀んだ本について書く事がある。讀書感想文の一種とは呼んでいいが、断じて書評ではありません。謙虚や遠慮ではなく、丸々本気で云ふのである。ここでわたしが云ふ書評は、主として丸谷才一の筆になる。ちくま文庫に収められた『…

390 二十年前の入院

平成九年の末頃から翌十年初頭にかけて、腰椎椎間板ヘルニアで入院した。大小ふたつ、並んで出來てゐた内、大きな方だけ切り取つた。両方取ると、残つた箇所への負担が大きくなる恐れがあるからで、担当医曰く 「後になつて動けンくなつたら、その時に取りま…

389 甘味噌の推理

甘味噌豆腐。 好みで云へば、もうちつと、山椒の利いた方がよかつたんだけれど、何しろお晝の定食である。麦酒に適ふ味つけは控へたのだらう。ごはんには大変よく似合つた。豆腐を炒めるのは中華料理の手法かと思へるが(實際この定食を食べたお店は、中華居…

388 コシナが慾しいな

偶に…年に一ぺんか二へんくらゐ、ベッサが慾しくなる。ここで云ふベッサはオリジナルでなく、二十世紀末にコシナが出した方。今はどうなつてゐるのか。記憶にあるのはベッサL、同R、同T、それから同R2だから、この稿はそこで途切れる話になる。念を押すと、…

387 文學秋刀魚

秋と云へばさんまで、さんまと云へば目黒と応じたいところだが、お殿さまには申し訳ないと思ひつつも、矢張り佐藤春夫の『秋刀魚の歌』を筆頭に挙げたい。 あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ ー 男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて 思いにふける と…

386 立ち呑み考

暫く立ち呑み屋に足を運んでゐない。 好きな店は何軒かあつて、その気になればいつだつて行ける筈なのだが、どうもタイミングがあはないといふか、その気になつた時と財布の具合が宜しくないとか、そんなこんなで足が遠のいてゐる。 行く時はひとりである。 …

385 本の話~豊穣な世界の設計図

『横しぐれ』 丸谷才一/講談社文庫 丸谷才一はわたしにとつて(いやわたしひとりに限つた事でもなからうが)、先づ長篇小説家の印象があつて、批評家や随筆家の側面はその後に續いてゐる。かういふ見立ては本人にすると不本意だらうなとも思ふのだが、染み込ん…